我々の宗旨が、真言宗としてその教法を広く宣揚する限りにおいて、文字・言葉は真言密教の本質に関わるものであろう。弘法大師が『声字実相義』、『吽字義』等の著作を我々末徒に示されているのも、このことの裏付けである。日々の行法にても文字・言葉は重要な意義を有しており、一座の修法の際には必ず"字輪観"が組まれて、本尊真言の字相字義を観想する経緯がある。現在、日本密教における字相字義の根拠は五十字門を主流としているが、字門道の成立は四十二字門を本初とする。拙論は、文殊菩薩の五字咒をもとに四十二字門の密教的意義を求めるためのささやかな考察である。