智山学報
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弘法大師空海の『大智度論』理解
ー『辯顕密二教論』を起因としてー
中村 本然
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2016 年 65 巻 p. 175-194

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抄録

    真言宗の開祖弘法大師空海(774ー835、後は空海と略す)は、『辯顕密二教論』(後は二教論と略す)を著して、当時の仏教界に真言密教という新たなる教理を問うことになる。『二教論』において空海は、『金剛頂瑜伽金剛薩埵五秘密修行念誦儀軌』をはじめとする五経三論を所依として思想的構築を試みている(1)。
 この度の論考では冒頭部分に散見する「楞伽法仏説法の文、智度性身妙色の句の如きに至りては、胸臆に馳せて文を会し、自宗に駆りて義を取る。惜しいかな、古賢醍醐を嘗めざること(2)」の一文に注目し、中でも『大智度論』が明示する教説に関する空海の思想的な取り扱いに焦点を当てることにしたい。
 筆者は既に「楞伽法仏説法の文」とある『入楞伽経』の法仏説法説と『釈摩訶衍論』の教説とを比較検証することにより、空海の法身説法説の思想的な変遷について論及している(3)。
 本報告では『大智度論』の教説の特徴について、前の拙論と同様に『釈摩訶衍論』を視野に入れた検討を行ってみたいと考えている。『大智度論』に関しては『大毘盧遮那経疏』を通じて、密教経典を象徴する『大毘盧遮那成仏神変加持経』をより詳細に釈するに際して重要な役割を果たした論であることを承知している。

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2016 智山学報
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