智山学報
Online ISSN : 2424-130X
Print ISSN : 0286-5661
ISSN-L : 0286-5661
『即身成仏義』の構成について
ーとくに二教一論八箇の証文を中心にー
大塚 伸夫
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2016 年 65 巻 p. 195-208

詳細
抄録

    近年の画期的な研究の一つといえる勝又俊教氏によれば(1)、弘法大師が『即身成仏義』を著したのが六大思想を導入し始めたころであると特定して、伝統的な説(弘仁10年前後の成立)に対し異を唱え、同書の成立年代を弘仁末から天長初年(823―24)ころと推測している。筆者も勝又説の手法と成立年代説に同意するものであるが、その後の先行研究においては勝又説に批判的な研究もある(2)。ただ、こうした歴史的な成立問題を議論するのも大事であるが、本稿では空海が密教経軌を取り上げて密教の成仏に言及する箇所に注目し、『即身成仏義』自体の構成について考察してみたいのである。というのも、空海が入唐求法より帰朝し、『御請来目録』を奉進してから『即身成仏義』を著すにいたる過程で、空海自身の成仏に関する密教経軌への解説内容が変遷しているように思えるからである。端的にいえば、入唐より帰朝後間もない当初は単純な速疾成仏の強調に過ぎなかったものが、弘仁8(817)年ころを契機に、密教の成仏に関する解説の中に筆者のいう「心的成仏(仏智)」と「身的成仏(仏身)」の両面を強調するようになってきた傾向が認められるからなのである。本稿では、こうした空海の密教経軌に対する解説の変遷を確認することによって、『即身成仏義』に関する史的なアプローチというより、空海の密教経軌に関する解説特徴から見えてくる『即身成仏義』の構造的な問題を検討してみたいのである。

著者関連情報
2016 智山学報
前の記事 次の記事
feedback
Top