本稿は、近年定着した新語“人气”の誕生までの来歴を明らかにすることによって、中国語新語定着の一社会的要因を解明し、語の発生・定着と社会現象の相関関係を実証せんとするものである。“人气”は、以前は偶発的な複合語として存在しており、語義も一様でなかったが、1990年代に入り株式市場で頻繁に用いられ、使用範囲を広げて多用されるまでになった。この株式用語より一般語化するという定着パターンは実は台湾で既に起きていた現象であり、株式用語という共通点によって、日本、台湾、中国という新語“人气”の誕生経路が浮かびあがった。この誕生経路は各国・地域の市場経済化の順序と重なるものであり、市場経済化が新語の誕生・定着および日中間の言語交流に関与していることを論証した。