本稿は、これまで論じられてこなかった、“A 了 B (,) B 了 A”という構造を取り上げ、その文法機能や構造的意味を考察する。考察の結果、“A 了 B (,) B 了 A”は、形式上は緊縮構造の“A 了 B”が重ねられた構造ではあるが、文字通りの一回性の〈動作〉を叙述するものではなく、典型的には、「事態が進展し難い」状況を描写する表現形式であることが明らかとなる。また、当該構造と AABB 型動詞重畳形式を対照すると、それぞれが描写する事態には、話し手の認知的な捉え方に違いがあることが明らかになる。即ち、AABB 型動詞重畳形式は、事態を総括走査の視点で捉え、複数の動作主が無秩序に繰り広げる動作の反復を、一まとまりの〈様態〉として描写する形式であるのに対して、“A 了 B (,) B 了 A”は、事態を順次走査の視点で捉え、繰り返し行われる一回一回の動作の〈集積〉として形成される一つの〈状況〉を描写する表現であると考えられる。