2016 年 2016 巻 263 号 p. 82-98
本稿は、発見の状況を中心に、日中両言語における名詞一語文と存在文の成立条件について、話し手がとる視野の広さおよび視点の取り方という観点から考察をおこなった。名詞一語文は知覚対象に視野を絞り込んで述べる表現であり、存在文は広い視野から対象の存在を述べる表現である。先行研究では、中国語は傍観者俯瞰型視点を好み、日本語は当事者現場立脚型視点を好むことが指摘されている。俯瞰的な視点を好む中国語では、視野を狭くとった表現である名詞一語文は成立しにくく、視野を広くとった表現である存在文が成立しやすい。一方、現場立脚的な視点を好む日本語では、名詞一語文が成立しやすく、存在文は成立しにくい。本稿の考察をとおして、中国語は、発見の状況においても傍観者俯瞰型視点に基づいて事態を把握する傾向があり、存在文によって対象の存在を客観的に叙述する場合が多いことが明らかになった。