抄録
[はじめに]歩行能力が低下している障害者にとって、車椅子は移動能力を補う手段としてよく用いられている。なかでも片麻痺患者は健側の上下肢を用いて駆動する方法をとることが多い。片手片足駆動時の下肢の役割は舵取りと駆動と思われる。臨床ではこの片手片足駆動をなかなか学習できない患者を経験することがあるが、駆動に効率的な動作を理解することは、指導する理学療法士に必要不可欠な知識と考えられる。特に体幹の傾きは足底に十分な力を伝えるために重要な役割を果たすと考えられる。この研究の目的は、車椅子の片手片足駆動時に体幹の前後の傾斜角度が下肢の駆動力に与える影響を明らかにすることである。[対象と方法]対象は健常男性7名で、年齢20.0歳、身長170.4cm、体重62.0kgであった。計測動作は車椅子の片手片足駆動の模擬動作とし、座面は膝関節屈曲90度の時下腿が垂直になる高さの椅子に坐り、片足で車椅子を駆動するように床をかく動作を行った。このとき体幹の角度は前傾40度、直立位、後傾40度の3種類と規定した。また、駆動中の膝関節の角度変化による影響を見るために膝関節屈曲角度も60度、90度、110度と変化させて計測を行った。駆動力は3次元動作解析装置と床反力計を用い計測した。標点は両側の肩峰、股関節、膝関節、外果、第5中足骨先端に貼付した。動作解析ではCOG、床反力を求めた。また、同時に脊柱起立筋、腹直筋、内側広筋、大腿二頭筋長頭、前脛骨筋、腓腹筋、ひらめ筋の表面筋電図を、銀塩化銀電極による双極法で導出した。筋電図はバンドパス処理後、全波整流し、最大収縮時の積分値をもとに駆動動作時の筋活動を積分値の百分率として求めた。統計学的検定には分散分析を用い、危険率5%を有意水準とした。[結果]体重心の位置が最も前方に位置したのは前傾位、次に直立、最も後ろにあったのが後傾位であった。床反力ベクトルは前傾位が有意に大きい値を示した。表面筋電図でも直立位と前傾位での筋活動が大きかった。[考察]体幹が後傾位であると体重心は後方に位置し、下肢での駆動力を床に伝えるための床反力垂直成分を大きくすることが困難となる。駆動力を最大限利用するためには膝関節を進展した位置、下肢の屈曲による駆動の初めから力を十分伝える必要がある。体幹を前傾にすると体重心位置が前方に位置し、膝関節伸展位でも十分駆動することが可能になると考えられる。今回の研究では座面を膝関節屈曲の時下腿が垂直なる高さと規定したが、車椅子の座面の高さとは異なる。また、車椅子駆動時は体幹を前後に動かすことも臨床では見られ、座面の高さや体幹の運動が与える影響を調べる必要が示唆される。[まとめ]車椅子の片手片足駆動における体幹の位置の影響を3次元動作解析と表面筋電図を用いて解析した。今回の条件設定では駆動力を増大させるには体幹を前傾位にすると良いことが分かった。