抄録
【はじめに】前頭葉は、多様な情報を処理・統合し適切な行動を選択・実行する過程に深く関与する。脳損傷患者では、運動機能の回復の程度にかかわらず日常生活への適応に問題のある症例も多く、前頭葉の機能低下の可能性が考えられる。我々は第35回本学会において、脳損傷患者では前頭葉損傷の有無とは無関係に、前頭葉の機能1つであるワーキングメモリ課題の成績が低下することを報告した。今回、運動機能の回復と前頭葉の機能に何らかの関連があると考え、体重を部分免荷したトレッドミル歩行トレーニング(以下BWSTT)に重点をおいた理学療法を一定期間行った前後での歩行機能の改善と、空間位置の遅延反応を用いたワーキングメモリ課題の成績の関係を比較検討した。【対象】当院入院中の初発脳卒中患者10名、平均年齢57.5±6.8歳、発症後日数55.2±19.2日、原疾患は脳出血5例、脳梗塞5例で、障害側は右片麻痺5例、左片麻痺5例である。BWSTT開始の歩行FIMは、全症例3以下であり、日常の移動に車椅子を使用していた。6週間のBWSTT終了時の歩行FIM4・5・6である歩行獲得群(以下I群)、歩行FIM2・3である非歩行獲得群(以下II群)の二群に分類した。【方法】1.検査方法:測定装置はパソコン、タッチモニターディスプレイ、マウスである。被検者は座位で検査を受ける。マウスを押しつづけるとディスプレイに刺激図形が1秒間だけ呈示され、5秒後に8つの選択肢が表示される。マウスから手を離し、先に呈示された刺激と同じ位置に手を触れると正答になる。この課題を32回繰り返す。刺激図形が呈示されてから手を離すまでの反応時間、手を離してからディスプレイに触るまでの運動時間、正答率について検討した。但し、最初の4回の課題は習熟までの練習期間として分析から除外した。なお検査は、BWSTTを開始した週(入院5週目)と終了した週(入院10週目)に、1回ずつ行った。統計はrepeated measure ANOVAを使用し、p<0.05を有意とした。2.BWSTT:歩行能力に応じてハーネスにより30%以下の体重免荷を行い、トレッドミル上を速度0.2km/h以上で、必要に応じて骨盤又は下肢からの介助を加え歩行した。2分間の歩行を1日に5回、週3回の頻度で6週間行った。【結果】BWSTT終了時の歩行能力からI群6例(男4例、女2例)、II群4例(男4例)に分類された。I群、II群とも、遅延反応課題の成績(反応・運動時間・正答率)はBWSTT前後で有意に変化しなかった。【考察】今回、歩行機能の改善とワーキングメモリ課題により評価した前頭葉機能の関連性について一定の結果は得られなかった。前頭葉機能は複雑であり臨床場面においても評価が難しく、障害されている機能を特定するには複数の検査を組み合わせる必要がある。今後症例数を増やすとともに、GO/NO-GO課題等の抑制コントロール能力の評価を加えるなど、評価の信頼性や感度をあげ、臨床場面での患者の能力を反映する工夫をして、運動機能との関連について検討を続けていきたい。