抄録
【研究目的】近年、腹臥位で呼吸管理を行う方法が用いられるようになってきている。これは人工呼吸療法、酸素療法、薬物療法、吸入療法などの従来の呼吸療法と比べ、非侵襲かつPaO2を改善させる治療法であり、重症呼吸不全に対する画期的な呼吸理学療法の一手段として注目されている。そのPaO2改善の機序として、横隔膜運動の変化、換気血流比の改善など、多くの要因が推定されてはいる。そこで本研究の目的は、体位変化に伴う横隔膜運動の変化と、それに伴う肺野拡張の度合をMRIを用いて動的に解析し、呼吸理学療法に関わる基礎的知見を得ることとした。【対象と方法】対象は健常男性2名(対象1:37歳 BMI22.8、対象2:33歳 BMI25.3)。 実験手順は、MRI装置(Philips社Gyroscan ACS-NT Power Track 3000)を用い、背臥位及び腹臥位の両肢位をとらせ、各々、30秒間の安静呼吸を撮像した。撮像部位は右横隔膜とし、横隔膜のドーム頂点部を通る矢状面スライスを選択した。撮像にはターボスピンエコー法(TR:449msec,TE:40msec,FA:90°)を使用し、取得した画像はパソコン上に取り込み画像解析ソフト(NIH image)を用いて解析した。まず、横隔膜運動の解析方法は、MRI画像上で内臓器と肺野の境界線を横隔膜表面座標と定め、横隔膜の腹側(X1)・ドーム頂点(X2)・背側(X3)の運動距離を求め、両肢位で比較した。次に、肺野断面積の解析は、MRI画像上で肺野の断面積を求め、これも両肢位で比較検討した。【結果と考察】横隔膜運動の平均運動距離をみると、対象1では背臥位ではX1;19mm,X2;27mm,X3;35mm、腹臥位でX1;13mm,X2;14mm, X3;23mmあり、対象2では、背臥位でX1; 12mm,X2;16mm,X3;29mm、腹臥位でX1;10mm,X2;11mm,X3; 15mmあった。即ち、背臥位ではX1・X2よりも、X3の方が常に相対的な変化が大きく、また、腹臥位では背臥位よりも全体的に横隔膜運動は減少するものの、X1・X2よりも、X3の方が常に相対的な変化が大きいという横隔膜背側部分の運動の優位性が示唆される結果であった。また、肺野断面積の変化をみると、吸気時に増加した断面積の平均は、対象1では背臥位38cm2、腹臥位20cm2、対象2では背臥位32cm2、腹臥位21cm2であり、いづれもの対象も、呼気時の肺野断面積の平均は背臥位より腹臥位の方が減少を示した。このことより腹臥位では吸気時に、呼吸運動が何らかの要因で制限を受けている可能性があることが考えられた。