抄録
【はじめに】両側肩手症候群を合併したGaucher病患者に対し、約8ヶ月間理学療法を実施した結果、機能の改善が得られ、ADL能力が改善した。今回、若干の考察を加え報告する。【症例紹介】38歳男性。左利き。<現病歴>6歳:Gaucher病と診断され、脾臓摘出術施行。15歳:肝腫脹出現し薬物治療開始。32歳:両股関節痛出現。両側大腿骨頭壊死と診断。35歳:右人工骨頭置換術施行。平成13年8月:てんかん発作出現し、フェノバルビタール服用開始。9月:右上肢痛出現し、両肩・手指運動制限出現。両側肩手症候群と診断され、他院でリハビリ開始。12月:Gaucher病に対し、酵素治療を開始。平成14年3月:リハビリの効果上がらず、当院整形外科受診。理学療法及び作業療法開始となる。本症例は平成13年8月までは、福祉工場にてクリーニングの仕事を行っていた。【初期評価】意識清明。発話やや緩慢。MMTは両上下肢4から5。握力は右1.5kg、左2.5kg。四肢各関節にROM制限あり。両肩・手関節、左股・膝関節に運動時痛あり。両手・手指に浮腫・熱感・筋萎縮あり。%肺活量60.2%、1秒率13.5%。10m歩行15.3秒。ADLはBarthel indexで80点(減点項目:トイレ、更衣、入浴動作)。X-P上、左股関節に変形像、肩・手に骨萎縮あり。なお脳神経検査、筋緊張、協調運動機能、感覚検査、反射検査において異常はみられなかった。【経過】肩手症候群の症状緩和を主目的として、週5回、約8ヶ月間訓練を実施した。内容は、両手に対する交代浴、愛護的なROM訓練、筋力強化訓練を選択した。結果、ROMに大きな変化はみられなかったが、両上肢の運動時痛・両手の浮腫・熱感が改善し、握力が増加した(右8kg、左8kg)。上肢機能が改善した結果、更衣・トイレ動作等の上肢を用いるADL動作能力の向上がみられた。【考察】Gaucher病は脂質分解酵素の先天的欠損の結果脂質代謝異常をきたし、脂質が各種臓器に蓄積する稀な疾患である。骨への脂質の浸潤もみられ、骨変形がみられるとされている。本症例における肩手症候群の発生起序としては、Gaucher病に伴う骨変形により肩・手関節に運動制限を生じ、筋ポンプ作用の低下による循環障害が発生したことが考えられる。また、フェノバルビタールの副作用として両側肩手症候群があげられており、これが関与している可能性もある。Gaucher病による骨変形と肩手症候群により著明な運動時痛が生じ、訓練の進行を妨げる阻害因子となった。痛みを増悪させないよう愛護的に訓練を実施した結果、約1ヵ月後には上肢の運動時痛は軽減した。しかしその後、左股関節の運動時痛の増強に伴い、両上肢の運動時痛も増悪した。これはGaucher病の再燃により各関節に炎症反応が生じたためであろうと思われる。痛みにより訓練は難渋したが、愛護的に訓練を継続した結果、両上肢の運動時痛は徐々に改善し、それに伴い上肢の運動機能にも改善がみられ、ADL能力が向上した。