抄録
【はじめに】
我々は、肩関節スポーツ傷害患者が、粗大筋力や可動域が改善したにもかかわらず投動作などのパフォーマンスが改善しない例を経験する。この原因としていくつかの要因が挙げられるが、中でも筋力の発揮効率は大きな要因のひとつである。肩関節の等速性筋力測定について、低、中速域での報告は多いが、高速域での報告は少ない。これらの患者において、運動速度の違いによって肩関節の筋力がどのように影響を受けるのかはパフォーマンス改善において重要な問題である。今回、肩関節スポーツ傷害患者を対象に肩関節の等速性筋力を3種類の角速度で測定し、健常人と比較したので報告する。
【対象と方法】
対象は当院に来院した肩関節疾患術前患者8名(男性5名、女性3名、平均年齢24.9±10.3歳、平均体重64.8±22.7kg、すべて右利き、傷害側はすべて右側)と、整形外科的、神経学的に問題のない健常人8名(男性5名、女性3名、平均年齢25.4±3.7歳、平均体重63.9±11.2kg、すべて右利き)であった。疾患の内訳は反復性肩関節脱臼6名、動揺肩1名、腱板損傷1名であった。これらの被験者に前額面におけるfull canでの肩関節内外転、肩甲骨面上empty canでの肩関節内外転(以下SSP内外転)、肩90度外転位での内外旋(以下2nd内外旋)の3つの運動を、それぞれ60°/s、180°/s、360°/sの角速度にて施行した。筋力測定はBIODEX SYSTEM 3を用い、測定肢位は測定プロトコールに準じた。各筋力のピークトルクを求め、体重で除した値(トルク体重比)で算出し、統計処理を行った。
【結果】
2群とも非利き手側では、3つの運動におけるすべての角速度でトルク体重比に有意差がみられなかった。一方、利き手側では健常群に比べ疾患群で、2nd内旋のすべての角速度および外転180°/s、360°/s、SSP外転180°/s、内転360°/sのトルク体重比の有意な低下がみられた。また、2群とも60°/sから360°/sにかけてトルクは低下したが、180°/sの間までの低下率が疾患群の方でより大きくみられる傾向にあった。
【考察】
今回、低速域では外転トルク体重比に差がみられなかったが、高速域では有意に低下した。この理由として、単に筋力が弱いだけではなく、筋力を発揮するために要求される肩関節の安定性が低下している可能性がある。肩の動的安定性を担っている腱板の機能は投動作などの素早い動きに先立ち肩甲上腕関節を求心位に保持する役割を果たす。今回のような疾患では、速い角速度では腱板機能の低下により筋力の発揮効率が低下したのではないだろうか。スポーツにおいて、肩関節は高速の運動を強いられる事から、肩関節スポーツ傷害を正確に評価するためには高速域での筋力評価も重要であると思われた。