抄録
【目的】当院では歩行評価やインソールの効果判定に足圧力分布測定システムを使用している。しかし、臨床データを解釈するための正常歩行の足底圧・接触面積特性についての報告は少ない。そこで、歩行速度を段階的に変化させたときの、足底圧・接触面積の特徴を明らかにすることを目的とする。
【方法】対象は整形外科的既往のない健常成人8人(男性5名、女性3名、平均年齢24.4±2.0歳、平均身長166.6±6.8cm、平均体重59.6±6.1kg)とした。トレッドミルにより歩行速度を4段階(3km/h、4km/h、5km/h、6km/h)に規定し、各段階での足底圧・接触面積の測定と、両踵にマーカーを付け、ビデオカメラによる撮影を行った。足底圧・接触面積は、足長を3等分割(前足部、中足部、後足部)し、さらに前足部を足趾部と中足骨部に2等分割し、左右各10歩の最大圧、接触面積を抽出した。被検者間の比較のため、10歩を平均化し、圧は体重、面積は3秒間の片足立ち時の接触面積で除し正規化した。ビデオにより、左右10歩の歩幅、歩調を抽出し、歩幅は身長で除し正規化した。使用する靴は履きなれた運動靴とし、歩行を十分練習した上で測定した。また、疲労の影響を除くため、各歩行間で5分以上の休憩をとった。統計手法は一元配置分散分析を行った後、Bonferroniの多重比較を、相関分析にはPearsonの相関係数を用いた。
【結果】歩行速度の上昇に伴い、歩幅、歩調は有意に増加した。全最大圧は速度上昇に伴い増加し、3km/hと5km/h、5km/hと6km/h間で有意に差を認めた。足趾部圧は速度上昇に伴い増加し、3km/hと5km/h、4km/hと5km、5km/hと6km/h間で有意に差を認めた。中足骨部、中足部圧は速度上昇に伴い減少した。後足部圧は速度上昇に伴い増加し、各速度間で有意に差を認めた。全および中足骨部接触面積は速度変化と関係なく一定であった。足趾部接触面積は速度上昇に伴い増加し、3km/hと5km/h間で有意に差を認めた。中足部接触面積は速度上昇に伴い減少した。後足部接触面積は速度上昇に伴い増加した。また、歩行速度と足趾部圧に正の相関、足趾部圧と中足部接触面積に負の相関を認めた。
【考察】歩行速度の上昇に伴い、中足部接触面積が減少、足趾部圧が増加したことは、足のアーチが高くなることで、ウインドラス機構による足趾の蹴りだしが強くなったためと考えられる。これらは、歩行速度と足趾部圧に正の相関、足趾部圧と中足部接触面積に負の相関を認めたことからも裏付けられる。以上より、歩行速度の改善には、中足部接触面積の低下、足趾部圧の上昇が関与することが示唆された。