抄録
【目的】歩行障害の評価に三次元動作解析装置(以下,3D)等の高精度測定機器を使用可能な環境は一部に限られ,正確な数値データから改善の根拠を検討することは困難であることが多い.定量的データを簡便に得ることができれば,改善の目標を具体的に提示することが可能となり,治療効果が期待できる.そこで本研究は,加速度計付歩行計Lifecorder(スズケン,以下LC)で得られる値と3D VICON370(Oxford Metrics)から得られる値を検討し,歩行時の骨盤運動を定量的に評価する簡便な方法を開発するための基礎データを得ることを目的とした.
【方法】対象は健常な男子大学生18名(平均年齢21.6(19~23)歳,身長171.7±8.3cm,体重64.3±6.4kg)であった.被験者には研究に関する説明を行い,参加の同意を得て実施した.測定手順は,まずLCを被験者の両側上前腸骨棘(ASIS)下1.0cmの位置に装着し,ASIS上に反射マーカーを貼付した.次にトレッドミルAR-200(ミナト医科学)上にて歩行速度100m/minでの歩行(試行a)および同速度で右側下肢に体重の5%の重錘を負荷した歩行(試行b)を各2分間行った. LCからは1試行分の運動量を記録した.3Dにて歩行開始1分後から30秒間の歩行状態を計測(サンプリング周波数60Hz)し,ASISの加速度積分値を10歩行周期分を加算平均し,1試行分の総和およびASISの運動量を算出した.試行a, bのLC運動量,ASIS加速度の総和および運動量を比較検討した.統計解析はt-検定を用い,有意水準は5%とした.なお,本研究は東京都立保健科学大学研究倫理審査委員会の承認を受けた.
【結果】右側のLCによる運動量(kcal) (試行a,b)は3.80±0.89<4.78±0.55,3DによるASIS加速度積分値の総和(m/sec)は345.2±62.5<418.8±88.0,ASIS運動量(kcal)は17.7±6.93<23.3±7.54で有意差があった.左側の測定値は,それぞれ3.79±0.88<4.29±0.40,391.8±103<400.0±48.0,21.2±3.77<23.5±13.4で,有意な差はみとめられなかった.
【考察】右側下肢遠位に重錘を負荷し歩行することにより,通常歩行に比べその振り出し動作に変化が生じ,それに伴い反対側である左側の支持性の増加,下肢近位であるASISの加速度の増加に抑制が起こり,右側ASIS加速度が増加することで,運動量に変化がみられたと考えられる.LCは接地時の加速度変化から運動強度を算出するため,重錘負荷による影響としてのASIS加速度,運動量の変化が反映されたと考えられた.加速度計付歩行計を使用することにより,骨盤運動に変化を伴う歩行を定量的に把握できる可能性が示唆された.