抄録
【はじめに】大腿切断者の運動療法は、筋力訓練・歩行訓練が一般的である。
今回、我々はMelorheostosis(流蝋骨症)により、右側上下肢に著明なROM制限を認め、右大腿切断術後に創部壊死が出現、また、腰痛により離床困難であった症例に対して半側臥位自転車エルゴメーター(StrengthErgo240:三菱電機株式会社製)を使用することにより健側片脚駆動にて運動療法を行い、安定した義足歩行を獲得したので報告する。
【症例】32歳、男性。生下時より右下肢の太さを指摘され、徐々に右膝関節・足関節に屈曲拘縮が出現し歩行困難となった。1995年にMelorheostosisと診断され、2002年7月に右大腿切断(関節裂隙より12cm上方にて切断)および右肘腫瘤切除術を施行。
【経過】術前より右肘・股・膝・足関節を中心にROM制限を認め、術後4日目より車椅子開始するも、5日目より切断創縁の皮膚組織に一部壊死が出現。洗浄デブリドマンを繰り返し、術後12週3日目に上皮化完成。13週5日目より大腿義足作成開始となる。義足装着が困難であった約13週の間、右肘ROM制限、腰痛により通常の歩行訓練・筋力訓練を積極的に行えなかった。そこで、筋力・体力向上目的に体幹保持が可能なアシストペダリングによる健側下肢のみの駆動ができる、StrengthErgo240を使用。回転速度50r/min、アシスト40r/minにて開始した。約4週後には30分以上連続駆動が可能となり、左膝伸展最大トルクは179.7N・m、心肺運動負荷試験(ミナト社製AE300SRC)でのATは26.1ml/kg/min、peakVO2は30.0ml/kg/minであった。その後アシスト機能を使用せずに駆動が可能となり、左膝伸展最大トルクは191.5N・mまで増加し、約6週後の心肺運動負荷試験ではATが29.0ml/kg/min、peakVO2も33.6ml/kg/minであった。
術後15週1日目でT字杖使用にて義足歩行が安定したため退院となる。
【考察およびまとめ】下肢切断者の義足歩行に要するエネルギー消費が大きいことは周知の通りである。本症例では、下肢切断後創部の壊死が出現し、義足装着までに約13週を要した。義足装着困難で歩行訓練が不可能な場合、活動量が極端に制限され、更なる体力低下が懸念されるが、StrngthErgo240による運動療法は左右独立ペダル駆動が可能で、アシスト機能を利用すれば片脚のみの機能回復も可能である。下肢切断者にとって、片脚のみの運動であっても、機器を適切に使用することにより、健側下肢の筋力向上と全身体力向上を図ることが可能であった。