抄録
【はじめに】今回、体表面温度の経時的変化に着目し、スリングエクササイズセラピーを用いて背臥位、腹臥位の全身ハンギングを行い、身体に及ぼす影響・効果を検討した。
【対象】健常人男性9名、年齢22.9±6.26歳
【方法】計測には医用サーモグラフィ装置サーモトレーサ(NEC三栄、TH5108ME)、 ベッドサイドモニタ(日本光電、BSM-1101)(以下モニタ)を用いた。環境条件は消灯暗室状態で室温25.8±0.5°C湿度60%であった。方法は半裸の状態で室温に馴化させ、セラピーマスター(Nordisk Terapi Co.)を用いて20分間の全身ハンギングを背臥位、腹臥位の順で行った。各々の姿勢の影響をなくす為、各計測は1時間の間隔を設けた。開始直後から5分毎に体表面温度、血圧、心拍数の測定を行った。温度の計測部位は手部、前腕部、肩関節付近(肩甲帯)、腹部(腰部)とした。尚、検定はPaired t‐testで行った。
【結果および考察】背臥位では手部の温度が、開始直後と比較して5,10,15分で上昇した(P<0.05)。また10分をピークに15,20分にかけて低下した(P<0.05)。これは末梢血流の増加を示唆していると思われる。前腕部、肩関節部では開始直後から15分にかけて低下した(P<0.05)。腹部では開始直後より低下する傾向を示した。これは、ハンギングによる全身の筋活動量の減少が原因と思われる。モニタでは心拍数が開始5分から15分で低下した(P<0.05)。これらのデータより、副交感神経優位の状態になったと思われ、リラクセーション効果を期待できると思われた。
腹臥位での手部の温度は背臥位と同様10分をピークに低下したが、ばらつきが多くその傾向を示すに留まった。前腕部と肩甲帯部では、背臥位同様開始直後から低下した(P<0.01)。結果より背臥位と同様にリラクセーション効果が得られていると思われるが、個人差が大きく十分ではなかった。これは今回の肢位が日常経験することの少ない姿勢であったという精神的側面と、腹臥位姿勢の特徴が反映されたものと思われる。つまり胸郭部の圧迫による心肺系への影響などが原因と考えられる。これは、モニタで心拍数の変化はなかったのに対し血圧が収縮期、拡張期共に開始から5分で低下した(P<0.05)ことからも伺える。次に腰部について開始直後から5分は低下の傾向を示したが、5分後から15,20分と上昇した(P<0.05)。これに関しては、今後他のパラメータを用いて細かな検証が必要と思われるが、ハンギングされることにより腰部にかかっていた重力が除去され、このことにより脊柱起立筋群の緊張が低下し血流量が増加したのではないかと思われる。これは腹臥位ハンギングの有用性を示唆しており、今後も継続して方法論等の確立及び有用性の検討を行っていく必要がある。