理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 806
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理学療法基礎系
足関節・足趾の自動運動と足背部の血流変化について
深部静脈血栓症予防を目的として
*渡部 幸喜赤松 満一色 房幸
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抄録
【目的】下肢の関節外科や腹部・胸部外科術後の運動療法を阻害する因子のひとつとして深部静脈血栓症がある。罹患肢の安静を余儀なくされ、合併症として肺塞栓症を引き起こせば生命の危険まで脅かされる場合もある。その深部血栓症を予防する手段としては足関節の自動運動、弾性ストッキングの着用、空気加圧法等が日常よく使用されている。足関節の運動による筋のポンプ作用はよく知られているところであるが、実際に運動により血流がどのように変化するかの報告は少ない。そこで我々は足関節や足趾の自動運動が足部の血流にどのような影響を及ぼすのかをレーザー血流計を用いて測定し、その有効性を検討したので報告する。
【方法】高血圧や肥満などの基礎疾患を持たない健常人31名(男性6名、女性25名)、年齢20歳~29歳(平均24.8歳)を対象とした。運動は足関節底背屈のみ、足趾屈伸のみ、足関節底背屈と足趾屈伸を同時、の3種類を全員に行い、安静時とそれぞれの運動後10秒ごとに5分間血流を測定し比較検討した。計測部位は足背面第2、3趾間より3cm中枢寄りとした。血流の測定はアドバンス社製レーザー血流計ALF21を使用した。この血流計は接触型で接触部の血流を測定し生体組織100gあたり1分間の血流量に換算して表示するものである(単位はml/min/100g)。
【結果】安静時の血流の平均は1.07±0.23、運動後は足関節底背屈のみ1.72±0.54、足趾屈伸のみ1.85±0.62、足関節・足趾同時1.85±0.44であった。安静時と3種類の運動後との間にはそれぞれ有意な差が認められた(P<0.05)。またそれぞれの運動後間には有意な差は認められなかった。測定前の予測では足趾の運動を含む方が内在筋の筋活動が活発になるため、血流量がより増えると考えられたが、若干増加の傾向が見られる程度にとどまった。運動後は31例すべてで血流が増加していたが、経時的な上昇の仕方は様々で一貫性は見られなかった。
【考察】深部静脈血栓症は日本では比較的まれな症状とされてきたが、生活の欧米化に伴い近年増加傾向にある。また旅行者症候群としてよく知られるようになってきた。その発生にはいくつかの要因が考えられるが、安静臥床により筋のポンプ作用がなくなることも大きな要因のひとつである。そのため術後は下肢の自動運動を励行するようにしているが、股・膝関節術後は疼痛等のため足関節中心の運動になるのが現状ではなかろうか。今回の実験で足・足趾の運動により足背部の皮膚血流は増加することが示唆されたが、今後は下腿・大腿部の血流、あるいは実際の深部静脈の血流を測定し、より効果的な予防法を指導していくことが重要と考えられる。また他の予防策との組み合わせについても研究の余地があると考える。
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© 2004 日本理学療法士協会
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