抄録
【目的】臨床の場で、定量的に上肢の粗大筋力を測定するには握力計が用いられているが、下肢の粗大筋力を定量的に測定する一般的な方法は見当たらない。我々は、健常者を被検者として、ヘルスメーターを用いて下肢の粗大筋力を測定し、その測定値に再現性と妥当性のあることを報告した。今回は、施設入所中の障害を有する高齢者を対象として、ヘルスメーターを用いた下肢粗大筋力測定の臨床応用の可能性を検討した。
【方法】対象は、介護老人保健施設に入所中の48名(男性5名女性43名)、平均年齢85.2±6.6歳の高齢者である。測定方法は、訓練ベッドに端座位となり、足底にヘルスメーターを置いた状態で訓練ベッド端と膝窩部間を拳一個分空け、その状態でヘルスメーターを最大限に押してもらった。これを左右行い、左右の数値を合計し体重で除したものをヘルスメーター値とした。測定上の留意点として、殿部を訓練ベッドから離さないようにし、急激に押すのではなく徐々に下肢でヘルスメーターを押すように指示した。抽出されたヘルスメーター値の再現性の検討は、級内相関係数を用いた。また、ヘルスメーター値の妥当性を検討するため、対象者のBI、歩行速度、介護度との関連性を検討した。なお、関連性については、ピアソンの相関係数を求めて検討した。歩行可能群と歩行不能群のヘルスメーター値の比較は、対応のないt検定を用て検討した。
【結果】各項目の平均値は、ヘルスメーター値0.43±0.18kg/kg、BI80±19点、歩行速度0.69±0.30m/秒、介護度1.60±0.92であった。ヘルスメーター値の再現性について、1回目の測定値と時間をおいた2回目の測定値に有意差は認められず、級内相関係数は0.823と高い再現性を示した。ヘルスメーター値とBI、歩行速度、介護度の相関関係は、BI(0.65)、歩行速度(0.57)、介護度(-0.43)の順に有意な相関性が認められた。また、歩行可能群27名のヘルスメーター平均値0.52±0.15kg/kgと歩行不能群18名のヘルスメーター平均値0.29±0.15kg/kgの2群間に有意差(p<0.01)が認められた。
【考察】障害を有する高齢者を対象に、ヘルスメーターを用いた下肢粗大筋力測定法の臨床応用の可能性を検討した。その結果、今回の対象例におけるヘルスメーター値の再現性は高く、ヘルスメーター値とBI、歩行速度、介護度との間に有意な相関性が認められた。また、歩行可能群のヘルスメーター値は、歩行不能群のものより有意に高かった。これらのことから、ヘルスメーターを用いた下肢粗大筋力値により、障害高齢者の歩行などの動作能力を予測できる可能性が示唆された。