理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 903
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理学療法基礎系
肺結核後遺症(横隔神経切断術後)の横隔膜に関する分節局在性の考察
*時田 幸之輔池田 利章シャーマ バンネヘカ鈴木 了宮脇 誠千葉 正司熊木 克治
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抄録
【目的】平成15年度新潟大学医学部解剖学実習において肺結核に対する横隔神経切断術、胸郭成形術後の男性屍を観察する機会を得た。その結果、横隔膜の筋内の分節局在性について若干の知見を得たので報告する。
【方法】対象は76歳男性。主として肉眼解剖学的に観察を行った。
【結果】右第1~第6肋骨が胸郭成形術により抜去されていた。また、主横隔神経は第4,第5頸髄より出て前斜角筋の前面を斜め上外方から内下方に横切り鎖骨下動脈の前、鎖骨下静脈の後を通り抜け、胸郭上口より胸郭内に入っていた。その経過中横隔神経切断術により前斜角筋前面にて切断されていた。一方、腕神経叢上神経幹(第5,6頸髄)より分岐し、鎖骨下筋神経と共通幹を形成する副横隔神経は、外頸静脈の内側を走り鎖骨下静脈の前を通って胸郭上口より胸郭内に入り、第1肋骨の高さで主横隔神経と合流していた。この副横隔神経は切断されていなかった。開胸すると、胸郭成形術により上部胸郭は狭小化しており、横隔膜も挙上し第6肋骨の位置で腱中心が胸郭側壁に癒着していた。肺は全体的に萎縮していた。また、肺上葉に灰白色の病変を認めた。横隔膜は筋萎縮を起こしており、全体的に薄くなってた。横隔膜の変化を個々の部位について観察すると、腰椎部の内側脚及び胸骨部では萎縮の程度は小さかった。肋骨部、特に肋骨弓から起始する部位では萎縮が激しいが、筋線維を確認することが出来た。しかし、腰椎部外側脚においては脂肪浸潤が認められ、特に外側弓状靭帯から起始する部位では著しい脂肪浸潤が認められた。
【考察】肺結核に対する肺虚脱療法は、肺を萎縮、虚脱させることによって結核の治療効果を狙って行われていた。それらの肺虚脱療法のうち横隔神経切断術は横隔膜を挙上させることにより下葉を萎縮させる目的で施行されていた。一般に確実に横隔神経を麻痺させるために主、副横隔神経ともに切断されるが、本例においては副横隔神経は残存していた。そのため横隔膜は不全麻痺を呈していたと考えられる。また、本例の横隔膜は主横隔神経切断による神経原性筋萎縮と胸郭への癒着による固定のための廃用性筋萎縮の両種の萎縮が存在すると考えられる。脂肪織の増殖は一般に筋原性筋萎縮に観られるもので神経原性筋萎縮では目立たないが、慢性に長期間経過した症例では脂肪織の浸潤を認めるとされている。また、神経原性筋萎縮は同一の運動神経により支配される筋線維が群を単位として起こるとされている。以上より本例の主横隔神経は第4,5頸髄、副横隔神経は第5,6頸髄が由来分節であり、主横隔神経のみが切断されているため第4頸髄からの横隔膜への支配が障害されていることになる。よって、脂肪浸潤を起こしていた腰椎部外側脚に第4頸髄(一部第5頸髄)の筋内分節局在性が存在することが示唆された。
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© 2004 日本理学療法士協会
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