理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 969
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理学療法基礎系
脳血管障害患者における歩行時外乱刺激に対する姿勢制御反応
麻痺側と非麻痺側の比較
*大沼 剛柴 喜崇大渕 修一酒井 美園佐藤 春彦
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抄録
【目的】
脳血管障害患者の転倒発生率は退院後6ヶ月間で73%とForsterらは報告している.転倒は寝たきりを引き起こす主要因のひとつであるので,転倒を予防することは,脳血管障害患者で特に重要な課題である.転倒を予防するためには,姿勢制御反応が重要視されているが,立位時の反応と比べ,歩行中の姿勢制御反応に関する研究は極めて少ない.脳血管障害患者における外乱刺激時の姿勢制御反応を明らかにすることは,患者独自の転倒予防プログラムの立案につながる.したがって本研究の目的は,両側分離型トレッドミル上での歩行中に外乱刺激を与えた時の麻痺側の筋反応潜時及び筋活動パターンを求め,非麻痺側と比較することで,脳血管障害患者の姿勢制御反応様式を明らかにすることである.
【方法】
杖を使用せずに自立した歩行が可能な地域在住脳血管障害患者27名の内,筋電図の計測が可能であった19名(平均年齢64.3±8.0歳,身長165.7±0.1cm,体重62.3±6.4kg)を対象とした.Brunnstrom Stageは3が14名,4が3名,5が3名,6が2名であった.対象者には測定前に書面及び口頭にて本研究の内容を説明し,承諾を得た.筋電計はNeuropack8(MEB-4208,日本光電社)を用い,電極を両側の大腿二頭筋,内側広筋,腓腹筋,前脛骨筋に貼り付け,サンプリング周波数1000Hzにて記録した.また踵接地時を同定するために両側の靴の踵部にフットスイッチ(荷重スイッチシステム:PH-450,DKH社)を取り付け,筋電計・フットスイッチの信号を同期させた.さらに10m最大歩行速度を測定し,その30%を両側分離型トレッドミル(PW-21,日立製作所)上での歩行速度とした.その際,屋外歩行時に通常使用している補装具はそのまま使用させた.測定方法は,被検者を両側分離型トレッドミル上で,手すりにつかまらず前方を注視するように指示し,上記の方法で決定した速度にて4分間歩行した.測定開始後1分間を定常歩行として,残り3分間に片側のベルトを500m秒間50%減速させ,身体を不意に後方に動揺させる外乱刺激を踵接地時に,非麻痺側,麻痺側各々3回計6回与えた.このときの刺激側の筋電波形について,全波整流・RMS処理を行い,筋反応潜時を算出した.麻痺側と非麻痺側の比較は対応のあるWillcoxonの符号付順位検定を用いた.
【結果及び考察】
麻痺側に刺激を与えた場合の麻痺側の筋反応潜時の平均は,遠位の筋ほど短く,前脛骨筋289.8±254.2msec,腓腹筋332.7±372.2msec,内側広筋435.3±374.8msec,大腿二頭筋582.4±279.2msecの順であった.非麻痺側の場合は麻痺側と同様の順であったが,前脛骨筋が 123.5±110.5msecで,麻痺側の方が有意に遅かった.脳血管障害患者の筋活動パターンは健常者を対象に行った先行研究と同一で遠位から近位へと順に活動する反応であった.したがって,転倒予防として着目すべき点は,特に麻痺側の足関節背屈筋の反応を速めるための運動を行うことであると示唆された.
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© 2004 日本理学療法士協会
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