抄録
【目的】運動能力は筋力・持久力・バランス・敏捷性などの因子から構成されるモデルである。敏捷性を評価する指標として上肢ではタッピング、下肢ではステッピングが挙げられる。Nagasakiらは運動能力モデルを筋力・バランス・歩行の3因子について提唱している。加齢により歩行能力に敏捷性がどのように関与しているかなどを明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】対象は健常成人男性16名とした。(中高年者8名:平均年齢58.2±2.6歳、若年者8名:平均年齢24.3±2.8歳)測定項目はタッピング、ステッピング、脚力、握力、最大歩行速度である。タッピングは坐位にて肘関節屈曲90°とし利き手の手関節掌背屈による最大反復運動を行ない1タップ毎の時間を測定し、平均値を最大タップ時間、その変動係数を最大タップ変動係数とした。ステッピングは立位にて両足底(靴底)に銅版を付け足踏みを最大速度で行わせ、1ステップ毎の時間を測定した。タッピングと同様に、最大ステップと最大ステップ変動係数を求めた。脚力測定は膝関節75°屈曲位における最大努力下での等尺性膝関節伸展筋力をBIODEXにて測定した。握力は立位にてスメドレー式ダイナモメーターを使用し、体側垂下式で測定した。10m最大歩行速度測定は16m屋内平地直線走行路(前後3mずつ助走路)に白紙を敷き靴底に墨を塗り、最大限の速度で歩行した。所要時間・歩隔・歩幅・歩数を測定し、歩行速度、歩行率を算出した。統計処理において危険率5%以内を有意とした。
【結果】中高年群では最大タップと最大ステップ、歩行速度と最大ステップ変動係数、歩行速度と脚力、歩数と最大タップ変動係数において有意な正の相関がみられた。最大ステップと最大ステップ変動係数、最大ステップ変動係数と歩行速度、最大タップ変動係数と歩幅、最大タップと最大ステップ変動係数、年齢と握力において有意な負の相関が見られた。若年者群では、体重と歩隔、歩隔と最大ステップ変動係数、体重と歩幅、身長と体重、脚力と握力において有意な正の相関が、歩幅と歩数、歩数と歩行速度、歩行率と最大ステップ変動係数において負の相関が見られた。
【考察】ステッピングおよびタッピングは歩行因子である歩行率に関係が確認された。歩行速度は歩行率と歩幅により規定されていることから、当然、歩行速度にも影響がみられた。中高年者群では、脚力と歩行速度との間に有意な相関がみられた。筋力と歩幅との関係があることが報告されていることから、筋力も歩行速度に影響があると考えられる。歩行能力には、敏捷性であるステッピング、筋力などの要素が重要であることが示唆された。