抄録
【はじめに】末梢性顔面神経麻痺(以下、顔面神経麻痺)はBell麻痺、Ramsay Hunt症候群(以下、Hunt症候群)、腫瘍、外傷等多くの原因から生じる。また背景疾患として糖尿病、高血圧等を有することが多いとされる。症状としては表情筋麻痺を主徴とし、その他随伴症状を伴うことも多い。今回我々は顔面神経麻痺に関する臨床症状について調査し、麻痺の回復との関係について若干の知見を得たのでここに報告する。
【対象と方法】1993年4月から2000年3月までに理学療法を施行した顔面神経麻痺患者202例を対象とした。診療記録より発症時年齢、麻痺の原因(Bell麻痺、Hunt症候群、腫瘍、外傷等)、背景疾患(高血圧、糖尿病等)の有無、初発か再発か、随伴症状(流涙、目の乾き、聴覚過敏、耳鳴、難聴、耳閉感、耳痛、味覚障害、眩暈等)の有無、顔面運動機能を調査した。顔面運動機能は40点法による評価から、発症後最低点、安静時対称性スコア(0~4の5段階)(以下、安静時対称性)、9つの表情運動検査項目で収縮を認めた項目数(以下、表情運動出現数)、全10検査項目で理学療法開始2週後に改善した項目数(以下、2週改善数)を設定した。また発症から3ヶ月以内に40点法で36点以上に回復した127例を回復例、それ以外の75例を遷延例として、上記調査内容との関係を分割表及び多重ロジスティック回帰分析により検討した。オッズ比は遷延リスクが大きくなる方向に計算し、95%信頼区間に1を含まない場合に統計学的有意とみなした。
【結果及び考察】発症時年齢では10歳毎のカテゴリー化で40代以上の対数オッズ比が大きいため、40歳で2分割したところ40歳以上で有意に遷延リスクが大きかった。麻痺の原因ではBell麻痺に対してHunt症候群、腫瘍術後・外傷でそれぞれ有意であった。背景疾患及び再発では有意差は認められなかった。随伴症状では耳痛、眩暈、難聴がそれぞれ有意であった。顔面運動機能では、発症後最低点は6点以下の対数オッズ比が大きいため、6点で2分割したところ6点以下で有意に遷延リスクが大きかった。また安静時対称性、表情運動出現数、2週改善数は3者ともスコアあるいは項目数が低いほど有意に遷延リスクが大きかった。
次に多重ロジスティック回帰分析では、独立変数間の相関関係を考慮し変数増加法にて最適なモデルを検討した結果、有意なものは2週改善数、発症後最低点6点以下、安静時対称性で、オッズ比(95%信頼区間)はそれぞれ0.4695(0.3739~0.5896)、7.2900(2.0103~26.4356)、0.4293(0.2313~0.7968)であった。判別率は91.44%でモデルの適合性は良好であった。多変量の分析では顔面神経麻痺の3ヶ月以内での回復には顔面運動機能、特に上記3指標が大きく影響していた。