抄録
【目的】筆者は,過去2年間の日本理学療法学術大会にて脳性麻痺児の起立動作を治療時間にビデオ撮影し,その画像を動作解析ソフトで定量化する取り組みを紹介した.第37回大会にて治療前後における動作変化,第38回大会にて股関節と膝関節の動作プロセスを紹介した.その目的は,臨床場面で遭遇した疑問の解決である.そして,未解決な疑問の1つに対象児へのハンドリングによる変化の評価がある.
本研究の目的は,同じ課題動作を複数回実施することにより,対象児が表出する動作の変化を確認するための先行研究とした.
【対象】2003年4月末まで独歩にて地域小学校に通っていた10歳6ヵ月の痙直型両麻痺児1名.尖足による歩容改善目的で,7月2日に両側内側ハムストリングス延長術,両側Baker術,両側踵骨ピンニング固定術,両側足底皮下切腱術を実施した.術後50日で独歩が可能となった.
担当理学療法士より足関節の運動を確認したいと依頼を受け,術後63日目にビデオ撮影を実施した.
【方法】椅子からの起立動作を右側面から撮影した.椅子の高さは,対象児の下腿長より10センチ低い椅子を設定した.対象児へは『拍手による合図で立ち上がるように』と指示し,起立動作のスピードを一定となるよう調整したうえで記録した.
その中から3回の起立動作を選択し動作解析ソフトを用いて,体幹・股関節・膝関節・足関節の関節角度変化を算出した.1回目の起立動作を基準に,それぞれを比較検討した.
【結果】回数を重ねることで体幹の最大屈曲角度が,1回目76.0°,2回目72.8°,3回目66.3°と減少が確認できた.股関節と膝関節の比率は動作全般を通じて,1および2回目より3回目の値は減少した.
【考察およびまとめ】小児の運動発達において起立動作を体幹の屈曲角度変化と股関節と膝関節の比率という2つの指標を見ると,共に減少した.この所見は,同じ課題動作を複数回実施することで,対象児はより効率的に動作を行おうとする活動と推測される.
今回の取り組みでは,担当理学療法士の依頼であった足部運動の変化と同時に体幹および股関節と膝関節の関連を見ることができた.この経験は,当初の目標を実遂し,さらに埋もれていたデータを解析することにより対象児の状態把握へ役立つものと考えた.