抄録
【目的】近年、画像診断技術の向上とともに脳血管障害例における病型別の機能的予後が検討されるようになってきたが、ほとんどは歩行能力に関するもので、理学療法士が対象とする基本動作能力全体を検討したものは少ない。今回、我々は視床出血例を対象に、急性期病院における基本動作能力の機能的予後とそれに影響を与える因子について後方視的に検討したので報告する。
【方法】発症2日以内に当院に入院し、当科にて理学療法を行った初回視床出血15例を対象とした。年齢は60.0±9.7歳(平均±標準偏差)、性別は男性12例、女性3例、理学療法開始時期は8.7±5.2日であった。基本動作能力の評価には機能的動作尺度(FMS)を用い、合計点および坐位保持、移乗動作、歩行の各小項目について検討した。基本動作能力に影響を与える可能性のある因子として、年齢、麻痺側、意識障害、上肢麻痺、下肢麻痺、表在覚、振動覚、位置覚、視空間認知について検討した。意識障害では日本昏睡尺度(JCS)、上肢麻痺および下肢麻痺ではブルンストロームステージを用いた。表在覚は4段階、振動覚、位置覚、半側無視は3段階で独自に評価基準を設定した。評価時期は急性期病院における標準的な入院期間である発症3週目(15-21日)とした。統計学的検討には、T検定およびスペアマンの順位相関係数を用い、有意水準は5%とした。
【結果】坐位保持は完全自立7例、修正自立1例、監視4例、部分介助2例、全介助1例、移乗は完全自立2例、修正自立2例、監視2例、部分介助5例、全介助4例、歩行は完全自立1例、修正自立0例、監視1例、部分介助5例、全介助8例であった。FMSの合計は17.8±15.4点であり、平均点を示した症例は坐位保持が自立、移乗が監視、歩行が部分介助レベルであった。FMS合計点では上肢麻痺(rs = 0.88)、下肢麻痺(rs = 0.89)、半側無視(rs = 0.63)、坐位保持では上肢麻痺(rs = 0.83)、下肢麻痺(rs = 0.83)、移乗では上肢麻痺(rs = 0.81)、下肢麻痺(rs = 0.85)、歩行では上肢麻痺(rs = 0.88)、下肢麻痺(rs = 0.88)の各因子と有意な相関を認めたが、他の因子とは有意な相関を認めなかった。
【考察】視床出血は知覚情報の主要中枢であるとともに、錐体外路系や毛様体賦活系との関連が明かとなっている。しかし、今回の調査からは知覚障害や意識障害が基本動作能力に与える影響は少なく、上肢麻痺および下肢麻痺との相関が高かったことから、隣接する内包に対する侵襲の有無と程度が基本動作能力に強く影響している可能性が示唆された。
【まとめ】視床出血15例の発症3週目における平均的基本動作能力は、機能的動作尺度で17.8点、坐位保持が自立、移乗が監視、歩行が部分介助レベルとなり、上肢および下肢のブルンストロームステージと有意に高い相関を示した。