理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 684
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神経系理学療法
歩行が注意機能に及ぼす影響
*増田 司平野 正仁吉村 茂和本田 哲三
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抄録
【目的】我々は臨床場面で、安静時よりも歩行時において注意障害を疑う現象を経験することがある。一般的に行われる注意機能評価はほとんどが安静時における机上検査が用いられる。しかし、歩行時における注意機能の評価法は確立しておらず、実際のADLに適応できる注意機能までは評価できていない。本研究の目的は歩行の注意機能への影響を確認するため、健常者群と脳損傷群(脳血管障害および脳外傷)において安静時と歩行時に注意機能検査を行い各結果の相違を比較検討したので報告する。
【対象と方法】対象は健常者10名(男性6名、女性4名、年齢31.3歳±4.1)、脳損傷患者13名(男性10名、女性3名、年齢52.9歳±15.1、歩行監視7名、自立6名)とした。
注意機能はdigit span(DS)・symbol digit modalities test(SDMT)・audio motor method(AMM)を用いて評価した。計測は2日間連続で行い、初日はDS・SDMT・AMMを机上で実施し、2日目に同検査をトレッドミル上での歩行時に実施した。速度は平常歩行の快適速度を基準にし、事前に安定して歩行できることを確認して行った。なお、歩行能力は自立度・速度・連続距離・歩行観察を記録した。また、健常者以外には認知検査の適応を確認するためにMMSEを実施した。検討は第一に、机上検査と歩行時検査の結果を健常者と脳損傷群で比較した。第二に成績の低下を示した症例の臨床上の特徴について検討した。
【結果】机上検査と比較して歩行時検査では、健常者のDS・SDMT・AMMは成績が向上もしくは維持されたのに対し、脳損傷群のDS・SDMT・AMMは成績が低下を示す症例がみられた。特にDSは健常者で桁数の低下がないのに対し、脳損傷群では6例で桁数の低下がみられた。
【考察】安静に比較して歩行場面ではより多くの情報処理が要求される。Brownらは片麻痺患者において姿勢保持課題はその他の認知能力を低下(すなわち干渉)させると述べている。この現象は一般的にdual task interferenceと呼ばれ、運動および認知課題を同時に行った場合それぞれの課題が干渉し合い、互いの成績を悪化させると考えられている。このことから脳損傷などで注意障害を呈すると、歩行時には更なる注意機能の低下が予想された。今回の結果から、脳損傷群において成績が低下した症例が確認された。このうちDSの桁数低下を示した6例では「つまずき」や障害物が回避できないなどの問題が観察され、歩行は監視が必要であった。その反面、成績を低下させない症例も観察され、DSの桁数が維持された7例は、1例を除いて歩行は自立であった。以上から、脳損傷例では歩行によって外界に対する注意機能が低下する可能性があり、歩行自立に向けた評価として歩行時における注意機能評価を加える必要性が示唆された。今後は、このパラダイムを用いて、歩行時における注意障害の客観的な評価法の確立を検討していきたい。
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© 2004 日本理学療法士協会
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