理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 685
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者の移動空間における自己と対象物との関係について
*菅原 恭子大野 範夫
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抄録
【目的】我々の運動行動の多くは視知覚により制御され環境内の移動を可能にしている。臨床上,脳卒中片麻痺患者は明らかな視空間失認・半側空間無視等の症状がなくとも対象との相互関係を捉えることが困難な症例は多いと感じている。そこで障害物を通過するという課題を通し,自己と対象物の距離においての空間認知について視覚的判断を用い調査を行った。
【対象】対象は痴呆,高次脳機能障害の認められない片麻痺患者10名(男性8名,女性2名,右片麻痺6名,左片麻痺4名)。平均年齢59.2±9.1歳。発症からの期間2~11ヶ月。歩行レベルは自立5名,監視5名。また健常者10名(男性5名,女性5名,平均年齢27.5±5.3歳)を対照群とした。
【方法】開始位置より5m前方に直径35 cm高さ120 cmの円柱を設置し,視覚的判断として円柱をよけずに通れるか,よける必要があるかをよける・よけないの二件法にて判断してもらう。その後10m地点まで実際に歩行してもらった。静止立位時の非麻痺側の最も外側(杖使用時は杖をついた位置)を基点とし,その延長線上に円柱を設置した。円柱は-25cm~+25 cmまで5 cm間隔に設定し,プラスとは体の中心へ,マイナスとは体側から離れていく方向とした。健常人は円柱を右側に設置した。視覚的判断はランダムに最低2回行い,よけると答えた最小値を視覚的転換点(以下転換点)とし,その値及び前後を実際に歩行し円柱を通過してもらった。歩行中の軌道変化や身体の回旋要素が認められた場合によけたと判断しこれを実測値とした。健常群・片麻痺群での転換点の比較,実測値と転換点の比較を行った。また移動方法についての観察も行った。
【結果】転換点は健常群・片麻痺群共に-5cm~+10 cm間にあり,基点の±0付近に集中していた。転換点と実測値での比較では健常群・片麻痺群共に一致・不一致はあったものの,転換点を境に±10 cm以内の範囲内に収まっていた。移動方法は円柱の十分手前から大きく進路をとるケースと接近してから対応するケースの大きく分けて2パターンであった。また片麻痺群ではよけると判断した位置でも動的な場面では接触したり急激な転回となるケースも認められた。
【考察】移動方法に関わらず,静的な場面での視覚的判断は片麻痺患者と健常者で大きな相違は認められず,静的な場面での自己と対象物の距離においての空間認知は保たれていると考えた。また転換点と実測値の値に著しい違いはなかったが,健常者は歩行と障害物をよける動作が滑らかで連続性のある動きに対し,片麻痺患者では歩行と障害物をよけるという行為が別もののように,連続性に欠けるケースも認められた。このように視覚的判断が動的な場面での対応に反映されていないケースに関しては静的な場面での視知覚のみならず,より多角的な評価が必要であると考える。今後症例数を増やし障害像との関連についても検討していきたい。
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© 2004 日本理学療法士協会
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