理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 705
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者における心理的緊張感の影響
*河尻 博幸阿部 司村上 忠洋加藤 文之山本 隆博木村 伸也
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抄録

【目的】脳卒中片麻痺患者において心理的緊張感が動作時の異常筋緊張や活動制限の要因になることは臨床的によく経験するが,これを客観的に捉え分析することは困難であるためその報告は少ない。そこで本研究では心理的緊張感の影響を関連機能の分析から検討することを目的とした。
【対象】研究参加に同意の得られた脳卒中片麻痺患者15名(男性7名,女性8名)とした。平均年齢は68歳(53~84歳),平均発症後期間は9年9ヵ月(1年4ヵ月~23年4ヵ月)であった。
【方法】立位で両脚を揃えた位置から麻痺側下肢を振り出した後に,非麻痺側下肢を揃える動作(ステップ動作)を最大努力にて行なわせ,開始立位での麻痺側爪先からステップ動作後の麻痺側踵までの距離を測定し,3回の平均値を最大ステップ長とした。最大ステップ長の70%のステップ動作を平地(平地条件)と心理的緊張感を高める条件として穴越え(長さを最大ステップ長の50%に設定:穴条件)の2条件にて3回ずつ行なわせた。杖や補装具の使用は日常生活での使用状況に合わせ,事前に平地条件で数回ステップ動作の練習を行なった。心理的緊張感は各条件の終了後に「とても怖かった」「少し怖かった」「全く怖くなかった」の3段階で評価し,平地条件に比し穴条件で心理的緊張感が増した群(緊張群)と変化しなかった群(なし群)に分けた。動作時筋緊張の評価としてNORAXON社製MyoSystem1200を用い筋活動量を測定した。麻痺側の上腕二頭筋,上腕三頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭より筋電位を導出し,ステップ動作時の麻痺側遊脚期における平均筋活動量から平地条件に対する穴条件の比(筋活動量比)を算出した。運動機能として12段階片麻痺グレード,最大ステップ長,最大歩行速度を測定し,また補装具の使用状況,日常生活自立度を調査した。分析は緊張群となし群の筋活動量比,運動機能,調査項目についてMann-WhitneyのU検定,Fisherの直接確率試験を用いて比較した。なお危険率5%未満を有意とした。
【結果】筋活動量比において緊張群ではなし群に比べて上腕二頭筋(緊張群平均1.61,なし群平均1.21),上腕三頭筋(緊張群1.47,なし群1.09),前脛骨筋(緊張群1.56,なし群1.13)に有意差を認めた。運動機能,日常生活自立度に両群間で有意差は認めなかったが,補装具の使用は緊張群で有意に多かった。
【考察】心理的緊張感の高まりやすさに差の生じた緊張群となし群において,ステップ動作時の筋活動量比に差を認め,心理的緊張感と動作時筋緊張は相互作用的関係にあると考えられた。また心理的緊張感やそれに伴う動作時筋緊張の高まりやすい緊張群においては運動機能や生活自立度の低下が予測されたが,有意差は認められず心理的緊張感の影響は確認できなかった。これは補装具の使用など他の要因も関与するためと考えられた。

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© 2004 日本理学療法士協会
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