抄録
【目的】当院では大腿骨頚部骨折患者に対し早期離床、3から4週自宅退院を目標にプログラムをすすめている。我々は先行研究として以下のこと等報告した。1.全体の45%が自宅退院、そのうちの約80%が歩行可能であった。2.退院時に内側型は60%程度が歩行可能で、外側型では40%程度であった。術式別では人工骨頭置換術70%、骨接合術CCHS法60%、CHS変法45%が歩行可能であった。3.術前既往症は全症例の86%、148例に認められた。退院時歩行獲得率は痴呆、脳血管障害で30%以下と低い傾向にあった。今回我々は大腿骨頚部骨折患者の退院後3か月及び6か月の歩行獲得状況について検討し、若干の知見を得たので報告する。
【方法】平成12年2月から平成14年12月までに当院で手術を施行し、退院まで理学療法を継続して行った173例のうち当院退院時(平均入院期間34±17日)に歩行獲得されていなかった79例を対象とし、そのうちの調査可能であった50名について検討した。性別は男性10例、女性40例、平均年齢83±8歳。骨折型内訳は内側骨折21例、外側骨折29例、術式別内訳は内側骨折で人工骨頭置換術(UHR)14例、骨接合術はCCHS変法7例、外側骨折は骨接合術DHS変法及びDHS+トロチャンタープレート変法29例であった。歩行能力は実用的な歩行を目安に、独歩、T字杖歩行、歩行車歩行を歩行可能、伝い歩き、歩行器、車椅子レベル以下は歩行不可として検討した。術前既往症については諸家が報告しているのを参考に痴呆、整形疾患、心疾患等とした。検討内容として、1.骨折型別術後3か月及び6か月の歩行獲得率、2.術式別術後3か月及び6か月の歩行獲得率、3.歩行獲得と術前既往症について検討した。
【結果】1.術後3か月において歩行可能となった症例は50症例中20例、6か月では26例(52%)であった。また歩行不可能の症例のうち6か月で10例が伝い歩き程度は可能であった。2.術式別ではUHRでは、3か月4例、6か月5例、CCHS変法では、3か月3例、6か月4例、CHS変法及びCHS+プレート変法は、3か月13例、6か月17例であった。3.歩行獲得と術前既往症との関係は、術後6か月にて歩行可能な症例中、痴呆合併するもの71%、歩行不可能な症例中では82%と有意差を認めなかった。また、心疾患、脳血管障害についても同様の結果が認められた。
【考察】本邦では大腿骨頚部骨折に関する多くの報告がなされており、多くは合併症のある症例で退院時に術前の歩行能力を再獲得できていないものが多く、痴呆や片麻痺のある症例でその傾向が強かったと報告している。本研究では当院退院後に術前既往症があるにもかかわらず歩行獲得された症例も多く、その回復は3か月にとどまらず6か月の長期間かかる症例もみられた。
【まとめ】退院時歩行不可能な症例について検討し、術後6か月にて痴呆等術前既往症があったが50例中26例が歩行可能となっていた。今後これらのことを考慮し、他院との連携も含め臨床に生かしていきたいと考える。