抄録
【目的】本研究では、着地動作に伴う下肢筋群の筋活動開始時間を測定し、着地動作におけるスポーツ歴及び着地における重心位置による差異を検討した。
【方法】対象は、実験の主旨を説明し同意を得て参加した神経学的、整形外科学的な既往の認められない18~31歳の男性20名とし、彼らをスポーツ群10名、非スポーツ群10名に分けた。方法は、40cm台上から両足同時に着地を行い、大腿直筋(RF)、大腿二頭筋長頭(BF)、前脛骨筋(TA)、腓腹筋内側頭(GAS)の4筋の表面筋電図を導出した。それらの筋活動開始時間について着地時点を基準として測定した。同時に反射マーカーを肩峰、第9胸椎、大転子、大腿を1/2と中上1/3の中点、膝関節裂隙、外果、外果前方2cmに貼付し、ビデオカメラにて撮影し、動作解析を実施した。
【結果】両群全ての筋において-863.5~-324.3msecであり、着地時点より先行して活動開始が認められた。また両群における比較では、BFはスポーツ群-738.5±154.0msec、非スポーツ群-561.6±124.9 msec、TAではスポーツ群-480.2±97.6msec、非スポーツ群-413.15±75.0 msecであり、両筋ともにスポーツ群は非スポーツ群に比して、有意な先行活動が認められた(p<0.05)。その他の筋では両群間に有意差は認められなかった。福井らの定める重心観察点を参考に1施行毎の着地姿勢を重心前方位と後方位に分け、各重心位置における下肢筋群の活動開始時間を比較したところ、全ての筋において有意差は認められなかった。
【考察】両群全ての筋において着地時点より先行して活動開始が認められた。これは、両群ともに着地動作に伴う下肢全体の準備的な筋活動によって運動制御がなされていると示唆された。各群間での比較では、BFは着地に伴う股関節屈曲の衝撃緩衝作用を拮抗筋の遠心性収縮によりなし得るため、TAでは脛骨を前傾させ、重心を前方移動させることにより膝関節での衝撃緩衝作用を容易するために、スポーツ群では非スポーツ群と比して、両筋ともに着地時点より先行して準備的な筋活動がなされていたと推察された。各着地姿勢における下肢筋群の活動開始時間を比較したところ、すべての筋において両姿勢間での有意差は認められなかった。これは安静立位時の足圧中心位置の範囲が踵から見て足長の30~60%と広く、かつ個々人においてばらつきがあるためではないかと考えられた。
【まとめ】健常成人20名を対象に着地動作における下肢筋群の活動開始時間に着目し、スポーツ歴、着地時の重心位置による差異を検討した。両群全ての筋で先行活動が認められ、下肢全体の準備的な筋活動によって運動制御がなされていると示唆された。またBFとTAではスポーツ群がより先行した準備的な筋活動がなされていると推察された。着地時の重心位置では筋活動開始時間に有意差は認められなかった。