理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 955
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骨・関節系理学療法
腰部に対する自己牽引法の効果
*国武 ひかり下野 俊也
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抄録
【はじめに】生活の中で腰痛は多く経験する症状であり,医学的管理を脱しても姿勢や作業条件によるストレスで再発を繰り返し易く自己管理が必要となる.Brian R Mulliganは椅子を使用し,どこででも容易に行える自重を利用した自己牽引法(以下,自己牽引)を報告している.今回,その方法と足部の位置を変えて行った変法について効果を検討した.
【対称と方法】健常男性5名,女性5名(年齢45.2±15.7歳,身長159±8.5cm,体重56±9.5kg)とし,研究に対し事前に書面による同意を得た.自己牽引の方法は,左右2つの椅子の背もたれを向かい合わせにし,被験者をその間に立たせた.背もたれの柄を把持し,足底は軽く接地させた状態で両上肢により体重を支える腰椎牽引(以下,自己牽引)を行わせた.その際,全身をリラクゼーションさせるよう指示した.足部の位置は中間位(自然立位)、前方(膝伸展位)、後方(自然立位から一足分後方)の3通りとし,自己牽引は任意に休息を取りながら1分間行わせた.評価方法は,L1とS1にマーカーを付け牽引終了時10秒前にデジタルカメラで撮影し,コンピュータによる画像解析より椎体間距離(マーカー間の距離)と骨盤傾斜角(垂線とのなす角)を計測し,座位および立位時のそれと比較検討した.統計学的処理には分散分析を用い,5%未満を有意とした.
【結果】椎体間距離は座位で11.25±2.4cm,立位で8.6±1.4cmであった.牽引後の椎体間距離はそれぞれ足部中間位11.7±3.2cm,前方13.05±3.3cm,後方11.7±3.2cmであり,立位と比べすべての足部位置で有意に椎体間距離の増加を認めた(p<0.05).足部位置の違いによる変化では,前方が最も大きな椎体間距離を示したが有意差は認めなかった.骨盤傾斜角は座位10.22±8.9°,立位27.37±10.1°であり有意に立位の傾斜角が大きかった(p<0.05).牽引後の傾斜角は足部中間位18.42±11.7°,前方10.97±13.9°,後方24.72±11.6°であり,坐位と比較し,牽引後の傾斜角は中間位と後方が増加,立位に比し中間位と前方が減少を示した(p<0.05).また,足部前方と後方では有意に後方が増加を認めた (p<0.05).
【考察】今回の結果より,上半身の重さを上肢により支え,下半身の自重による自己牽引はわずかではあるが椎体間距離の増加が得られ,腰部へのストレスが軽減できると考えられた.また,足部の位置を変化させることにより,牽引時の腰椎前弯の程度を変化させることも可能であった.この方法は,場所を選ばず,簡便に行えることから腰痛の自己管理方法として有用な可能性が示唆された.しかしながら,上肢の筋力が必要なこと,強い牽引効果は得られにくい点もあり,今後,どのような症例に利用可能か検討する必要が考えられた.
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© 2004 日本理学療法士協会
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