抄録
【背景】本邦における呼吸リハの対象者は高齢者が多く、その障害は多様な因子が関係している場合もある。障害者のリハビリテーションには背景因子の評価と対策の重要性が示されている。慢性呼吸器疾患患者は呼吸器感染症で急性増悪しやすく、そのリハビリテーションに難渋する事例も経験される。回復期リハビリテーション病棟(回復期リハ病棟)は肺炎後の廃用性症候群も対象にしているが、関連する報告は少ない。
【目的】肺炎で急性増悪した後に廃用性症候群を認めた慢性呼吸器疾患患者に対する回復期リハ病棟の役割とその有用性を検討する。
【対象】平成15年4月より8月の5カ月間に肺炎で急性増悪し廃用性症候群を認めた慢性呼吸器疾患患者で、当院回復期リハ病棟で呼吸リハを行った5例である。男性4例、女性1例、平均年齢は76.6歳で、基礎疾患は慢性閉塞性肺疾患4例、肺線維症1例であった。全例で廃用性症候群による生活機能の障害と背景因子を認めた。全例が回復期リハ病棟より自宅退院し、回復期リハ病棟入院日数は25日から43日であった。5例中4例は在宅酸素療法を利用し退院した。
【方法】回復期リハ病棟入院時と退院時の6分間歩行距離(6MWD)、機能的自立度評価法(FIM)、Borg scaleによる安静時の息切れ(安静時Borg scale)と動作時の息切れ(動作時Borg scale)について、対応のある2群の差の検定を行い、危険率5%未満をもって有意とした。痴呆を認めた1例は6MWT、安静時Borg scale、動作時Borg scaleを測定できなかった。また、個々の自宅生活を障害していた因子を検索した。さらに退院後に実施された居宅サービスを調査した。
【結果】6MWD、FIM、安静時Borg scale、動作時Borg scaleのいずれも有意差は認めなかった。背景因子では「介護が必要な妻と高齢者2人暮らし」1例、「配偶者との家族関係不良」1例、「離婚」1例、「家族の介護不安」2例を認めた。5例中3例は介護保険の要介護状態と認定され入院中に居宅サービスを計画し自宅退院となった。居宅サービスでは福祉用具レンタルと給付、住宅改修、身体介護1例、訪問看護2例であった。介護保険を利用しなかった1例は退院後、自治体より民生員と保健師が訪問を行った。
【考察】全例で生活機能障害と背景因子を認め、自宅退院には特に背景因子を解決することが重要であった。6MWTは全例で、FIMは5例中4例で改善を示し、今後、データを集積し検討することが必要と考えられた。個別プログラムは個人の生活機能と背景因子を考慮し自宅でも継続できる内容を計画した。自宅で継続が困難と予想された場合は早期より居宅サービスの利用を勧め、地域に情報提供することで自宅生活が可能となったと考えられた。回復期リハ病棟は、高齢で自宅生活を障害する背景因子を認めた患者の呼吸リハに有用なツールとなる可能性が考えられた。