理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 66
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生活環境支援系理学療法
姿勢が痴呆症状に及ぼす影響について
スクリーニング検査による検討
*西本 哲也石浦 佑一初鳥 日美
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キーワード: 痴呆, 姿勢, HDS-R
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抄録
【はじめに】痴呆症は記憶・見当識障害,感情失禁などの知的・精神面の症状や行動障害などを呈する疾患である.この数年痴呆患者と環境,行動範囲,姿勢等の関係について作業療法や看護,介護の分野で報告され,痴呆患者の精神賦活やQOLの向上,身体拘束の解消などに向け応用されている.痴呆の評価には長谷川式簡易知能評価スケールやMini-Mental State(MMS)などのスクリーニングテストが有用であるといわれており,病院・施設での看護およびリハビリテーションにおける評価に多く取り入れられている.しかしこれらの検査の実施に際して,痴呆患者の姿勢や環境設定はあまり考慮されず,評価妥当性の判断は難しい.そこで今回我々は姿勢による痴呆スクリーニングテストへの影響を調査し,若干の知見を得たので報告する.
【対象と方法】平成15年1月から9月までの間に倉敷市内の病院に入院,あるいは病院併設のディケアを利用していた痴呆症患者13名(男性3名,女性10名;平均年齢85歳)を対象にし,車椅子座位(以下座位)と臥位(背臥位あるいは側臥位)での改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)の成績を比較した.検査は数日おきに臥位,座位,臥位,座位の順で行い,各々2回の平均をその姿勢の評価値とした.検査は午後1時から2時の間に行い,どの検査も各姿勢に変換後10分前後に行った.また対象者の日常生活活動の状況をN式老年者用日常生活動作能力評価尺度(以下N-ADL)を用い評価した.
【結果と考察】N-ADLの平均は24点であり,重症2名,中等症6名,軽症5名であった.HDS-Rは座位の平均が12.54点,臥位の平均は11.50点であり座位が有意に高かった(Willcoxon符号順位和検定;有意水準5%).特に見当識,記銘力,記憶想起に関して座位の方が高い傾向にあったが,計算や数字逆唱ではそれぞれ1名を除いて姿勢による変化はなかった.またN-ADLで重度および軽度障害であった対象者は姿勢による変化はあまり見られなかった.どの対象者も姿勢の違いで3点以上の差はなく,劇的な評価値の変化は見られなかったが,座位での評価が最も信頼性の高いものであるという事は言えそうである.またN-ADLと座位および臥位との間には有意な正の相関が認められた(有意水準5%).これらの結果より,ADL能力の高い方が痴呆症状も軽いと考えられ,活動性の増加が痴呆症状の軽快に寄与する可能性が示唆された.また臥位と比べて座位では視界が順生活空間であり,体幹・頭頚部の抗重力活動が循環系の活性を促進し,精神賦活につながるといわれているが,座位をとること事体が過負荷であるような状態の場合は逆に感情失禁の引き金になる可能性も報告されている.起座順応性の向上が精神活動の賦活には最も基本的な要素と言えるだろう.
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© 2004 日本理学療法士協会
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