抄録
【目的】我々は、8年間に渡り地域住民と共同で体力測定等の健康増進活動を実施してきた。これまでの長期間の経験や実態調査から、住民の健康増進活動を促すためには住民自身の行動変容が必要であるが、我々が専門職として実施する体力測定や個別相談も行動変容のきっかけとなり、住民を側面から支持するためのソーシャルサポートの役割を成していることが分かってきた。本研究の目的は、住民の体力値がどのように推移しているのか分析し、住民自身が現在の自分の体力についてどのような印象を持っているか調査をすることで今後の健康増進活動の方針を検討することである。
【方法】体力測定に関しては、過去5年間連続して本活動に参加した男性21名(73.0±8.9歳)、女性54名(70.1±9.3歳)を対象に、握力、長座位体前屈、等尺性膝関節伸展筋力の推移を分析した。日常における体力に関するアンケートは、2003年度の本活動参加者(男性55名、女性161名)に対して実施し、非高齢群、前期高齢群、後期高齢群の3群に分類して比較した。
【結果】過去5年間における体力測定平均値の推移では、握力において、男性で37.3、38.5、36.9、34.4、36.2(kg)、女性で23.3、25.3、24.6、23.4、22.6(kg)と推移しており、初年度と最終年度の比較では統計学的な有意差は認められず、維持されていることが明らかとなった。長座位体前屈において、男性で5.7、6.2、6.6、4.1、6.3(cm)、女性で10.7、11.9、10.8、10.5、10.2(cm)と推移しており、維持されていた。過去4年間の膝伸展筋力平均値において男性で38.1、35.9、40.9、35.6(kg)、女性で23.7、23.2、18.4、21.5(kg)と推移しており、初年度と最終年度の比較では女性においてのみ有意な低下がみられた(p<0.05)。
アンケート調査では、普段どのような場面で体力の低下を感じるかという質問に対して、男性では3群共にスポーツ場面において最も強く感じており、女性では3群共に階段や坂道昇降において最も強く感じていた。どうすれば体力が向上するかという質問に対して非高齢群の男女間に特異差がみられ、男性では58%がスポーツをするという回答が最も多いのに対し、女性ではスポーツの回答は18%と少なく、食生活に気を付ける78%という回答が多くなっていた。
【考察】本来、加齢に伴う低下が報告されている各体力測定値を分析した結果、女性の膝関節伸展筋力以外有意な低下は認められず、良好な結果を得ることができた。また、体力についての意識調査では、男女の性別により異なった特性を示していた。このことは地域的・社会的背景を反映した結果であると推察され、今後健康増進活動を継続する上で生活スタイルを重視することの重要性が示唆された。