抄録
【目的】
日本の65歳以上の高齢者は全人口の19%に達した.高齢者に対する身体的,精神的援助方法が種々試行されたが,特に虚弱高齢者や軽度痴呆を伴う高齢者での成果を得ることは困難である.健康的な生活には,身体機能ばかりでなく精神機能を含めた多角的介入が必要である.QOLを高めるための社会経済学的手段として金銭管理を伴う消費行動がある.今回,虚弱高齢者および軽度痴呆高齢者を対象とし,消費行動を実践した結果と身体諸機能との関連性,精神的うつ状態との関連性を検討とした.
【方法】
通所リハビリテーション施設に通所している虚弱高齢者7名および軽度痴呆高齢者13名合計20名(平均年齢76.1歳)であり,研究の趣旨を説明し同意を得た者を対象とした.身体移動能力は,屋内自立・屋外要介助の者8名,屋内移動も要介助者が12名である.脳血管障害の既往者9名,その他11名である.精神機能評価はSelf-Rating Depression Scale(SDS)と,Face Pain Rating Scaleを用いた.ベースライン評価を1ヶ月間隔で2回実施し,その後1ヶ月の時点で10名ずつランダムに2群に分け,実際に消費行動(one coin shopで5個までを上限として買い物をする)を行う群(Cons-G)と,見学行動のみを行う群(W-G)とに分けた.それぞれ20分間の時間内で実施し,直後に再評価した.統計学的分析には,SPSS10.0Jを用い有意水準を5%未満とした.
【結果】
1.ベースライン評価2回のSDS総得点のSpearman順位相関係数はCons-Gでρ=0.529,W-Gでρ=0.662といずれも有意(p<0.01)に高かった.
2.SDS指標のベースラインと各介入行動直後との比較では,Cons-Gで46.4±5.9から44.3±9.1,W-Gでは51.9±10.0から49.2±9.7と両群ともやや低下したがその差は有意ではなかった.
3.SDSを構成している生理的随伴症状と心理的随伴症状とに分けて検討した.Cons-Gでは,生理的随伴症状は 16.6から13.6に減少傾向を示し,心理的随伴症状は17.6から19.2に増加傾向を示した.W-Gではいづれも変化なしであった.
4.Face Scaleでは,Cons-Gで改善した者5名,変化なし3名,悪くなった者2名であった.一方W-Gでは,それぞれ2名,0名,7名であった.
【考察】
虚弱高齢者や軽度痴呆高齢者では身体機能が低下すると,精神機能や社会的活動も低下することは広く知られている.逆に精神機能が活性化されれば,身体機能へ良い影響として現れることも事実である.今回の消費行動を通じて身体的な変化とともに精神機能への影響が生じることがわかった.医学,経済学,社会学,心理学など学際的な加齢研究が不可欠である.こうした高齢者個々人のニーズを実現する関わりや,これらを達成する有効な手法を模索していかなければならない.