抄録
【目的】日本は、医療の発展、生活習慣の改善、少子化などにより急速な速さで高齢社会を迎えるようとしている。総務省によると、平成15年6月現在の65歳以上の高齢者総数は、2418万人となった。そのうち75歳以上の後期高齢者数は1055万人と年々増加する傾向であり、今後、後期高齢者数は著しく増加することが予想される。急速な高齢化に対応して、高齢者にとって身体機能の低下をできるだけ抑え、健康的な日常生活を送るためには、運動療法の実施が必要不可欠であり重要である。近年、後期高齢者においてもトレーニング効果が十分認められると報告されているが、運動療法の効果の検証及び定量的評価の研究報告は少なく、探求する部分がたくさんある。今回、後期高齢者における身体機能改善のための運動療法の効果の検証を行った。
【方法】介護老人保健施設、特別養護老人ホームを入所又は通所している歩行補助具使用を含む独歩可能な男性11名、女性41名、計52名を無作為に治療介入群と対照群に分類した。治療介入群の平均年齢84.4±5.4歳、対照群の平均年齢86.3±5.0歳であった。被験者には、事前に研究の目的や方法などについての説明を行い同意を得た。治療介入群への訓練は、平行棒を握っての椅子からの立ち上がり動作訓練、ペットボトルを使用しての上肢挙上訓練を行い、治療期間3ヶ月間、2から3回/週の割合で実施した。運動療法の効果判定として、治療施行前と3ヶ月後に筋力、上肢挙上動作、起立動作、歩行能力などを両群共に評価し、改善率及び減少率を比較、検討した。筋力については、OG技研のIsoforceにて各関節の筋力を測定し、数回実施した測定値の中で最も大きく示した値(kgf)を最大筋力とした。統計処理にはStatView ver.5.0及びSPSSを使用し、有意水準はP<0.05とした。
【結果】治療介入群の改善率において、肘関節屈筋力及び伸筋群筋力が平均61%及び38%、股関節外転筋及び内転筋群筋力が平均53%及び57%、膝関節屈筋及び伸筋群筋力が平均37%及び70%、足関節背屈筋及び底屈筋群筋力が平均64%及び165%、握力が平均17%、大腿周径が平均1.5%、最大起立動作回数及び10秒間における起立動作回数が平均80%及び12%、最大上肢挙上回数及び10秒間における上肢挙上回数が平均89%及び26%、10m歩行時間及び歩数が平均9.3%及び2.8%、Functional Reach Testが平均22%、Timed&Go Testが平均10%と各評価項目に改善が認められた。また、対照群との群間において大腿周径を除く各評価項目に有意な差が認められた。(p<0.05)
【考察】各評価項目において著明な改善が認められたことから、立ち上がり動作訓練、ペットボトルを使用しての上肢挙上訓練といった手軽で比較的危険性の少ない訓練を低負荷で持続することが、後期高齢者の運動能力、身体機能及びこれらを左右する筋力、筋持久力、敏捷性、平衡性、柔軟性、持久性といった体力の要素の維持、改善に対して有効であると考える。