抄録
【目的】
近年、高齢社会に伴い高齢者の転倒
による骨折が増加している。当院リハビリテーション室においても転倒による骨折の予防対策について検討してきた。今回は転倒に対する身体的因子を検討するために、当院で利用しているFunctional Reach Test(以下FRと略す)と歩行時間との関連ついて、また運動がFR値にどのように影響するのか若干の知見を得たので報告する。
【対象】
当院外来通院患者36名(男性3名女性33名)、平均年齢67.8±10.4歳、身長151.0±7.7cm、体重51.9±9.6kg。内訳は、転倒の経験も危険も感じていない者を健常群として7名、転倒の経験はあるが、危険を感じていない者を転倒群として7名、転倒の経験は無いが危険を感じている者を危険群として10名、実際に転倒し上肢あるいは下肢の骨折を経験し、かつ危険を感じている者を転倒+危険群として12名である。また、全体から無作為にSLR運動を行った者をSLR運動群として7名、立位で爪先立ちと踵立ちを繰り返した運動を行った者を立位での運動群として7名、および運動を行わなかった者をコントロール群として5名に分けた。
〔方法〕機能的バランスの指標としてFR値を計測し、その歩行時間との関連として10m全力平地歩行をストップウォッチにて測定した。それぞれ3回施行し、平均値を計測した。SLR運動は臥位での下肢挙上運動であり、立位での運動は爪先立ちと踵立ちを繰り返す運動で、共に1セット20回、週に3回以上行った。運動実施期間は1ヶ月以上とした。
【結果】
(1)FR値は危険群、転倒+危険群が健常群に比して有意に低値を示した(p<0.05)。10m全力歩行時間では各群の有意差は認めなかった。FR値と10m全力歩行時間には負の相関r=-0.64(p<0.001)を認めた。(2)各群の中で立位での運動群のみFR値が有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
FR値において危険群、転倒+危険群が健常群に比して有意に低値を示し、またFR値と10m全力歩行時間には負の相関が認められたことから、この2つのパラメータは転倒に関する一つの指標となりえる事が示唆された。FR値が高い症例の中には10m全力歩行時間が長い症例もあり、このことは転倒の危険性に対して心理的影響が関与していると示唆された。また我々が行った立位での運動は機能的バランスの指標であるFR値を増加させ、転倒予防に対する効果があることが示唆された。このことから、高齢者の転倒予防に対する運動として日常の生活において簡便に行う事が出来、効果を有する方法を考慮することが重要であると考えた。今後はさらに、各群、運動方法や症例数の検討が必要であると考える