理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 75
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理学療法基礎系
階段下り動作における膝関節機能評価
*松井 知之久保 秀一瀬尾 和弥加藤 直樹畠中 泰彦長谷 斉渡辺 伸佳久保 俊一
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抄録

【はじめに】
 われわれは、第37回本学術集会にて、健常人の階段下り動作を分析し、freeパターンは立脚初期に床反力、関節角度、関節モーメントが増大し、slowパターンは立脚後期に床反力以外のパラメータが増大すること、また関節モーメントの最大値は両者に有意差がなかったことを報告した。今回は角速度、パワーのパラメータを加え、膝関節機能の評価、訓練遂行に役立つ指標の一つとして検討したので報告する。
【対象および方法】
対象は健常成人10名。平均年齢25.7±5.4歳、身長171.4±8.6cm、体重64.6±12.1kgであった。床反力計(Kistler社:9281B1)上に高さ20cmの段差を4段作製した。被検者の体表に左右10個の反射マーカーを貼り、5台の赤外線カメラにて撮影し、三次元動作解析装置(ELITE PLUS)にて解析した。動作スピードは自由に下りたfreeパターンと、メトロノームに合わせたケイデンス60のslowパターンとした。比較パラメータは膝関節における角速度、パワーとし、統計処理は2群間に対応のあるT検定を用い、危険率1%で検定した。
【結果】
 角速度は、freeパターンが立脚初期と後期に増大する二峰性の波形となり、立脚初期にピークを示した。slowパターンは立脚後期にピークを示す波形であった。各々のパワー最大時の角速度を比較するとfreeパターンが220±28deg/sec、slowパターンは157±32deg/secとfreeパターンが有意に高い値を示した。パワーは、freeパターンが角速度同様に二峰性の波形を示し、立脚初期にピークとなった。一方slowパターンは立脚中期以降にマイナスの値が増大し、立脚後期にピークを示した。パワーの最大値はfreeパターンが-17754±3471Nm・deg/sec、slowパターンが-13390±3450 Nm・deg/secであり、freeパターンが有意に高い値を示した。
【考察】
 前回の研究結果では、関節モーメントの最大値に両者の有意差は認めなかったが、今回の結果より、力のみならず、速度という要素を考慮する必要があると考えた。freeパターンの機能は、接地直後に角速度・パワーが大きな値を示し、膝関節伸展筋群の瞬時な遠心性収縮により衝撃を吸収していると考えた。一方slowパターンの機能は、パワーが立脚中期から後期にかけて増大するため、この時期に持続的な遠心性収縮により、重心下降を制御し、反対側下肢の接地時の衝撃発生を予防していると考えた。このように動作パターンの違いにより膝関節の機能は異なるが、いずれも遠心性収縮であり、角速度はslowパターンでも約150deg/secということから、円滑な階段交互昇降には、早い速度での遠心性収縮の訓練が必要であると考えた。

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© 2005 日本理学療法士協会
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