抄録
【目的】腰痛症患者では、諸家により健常群に比し体幹深層筋であるローカル筋(以下、LMと略す)の筋収縮不全や筋力の低下等が報告されている。しかし、腰痛経験者で現在、症状のない者(以下、腰痛歴群とする)を対象とした調査報告は少ない。そこで今回、腰痛歴群では、なんらかの体幹筋筋力低下、特にLMに差異があるのではないかと予測し、グローバル筋(以下、GMと略す)とLMに焦点を当て、腰痛経験の有無により体幹筋の筋収縮率の相違を比較検討した結果、若干の知見を得たのでここに報告する。
【方法】本研究の対象者は17名とし、過去に全く腰痛経験がないものを健常群9名(26.7±7.8歳)、腰痛経験があるものを腰痛歴群8名(24.8±3.0歳)とした。なお、対象者には本研究の概要を説明し、本人の参加意思を確認後、同意を得た。使用装置は超音波画像診断装置(アロカ社製SSD-2000)を使用し、縦断像法にて筋厚を測定した。被験筋は、左右の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、多裂筋、胸最長筋、腰方形筋の7筋(14部位)とした。運動肢位は、背臥位での頭部挙上による腹筋運動と、四つ這い位での上下肢の対角挙上運動とした。
【結果】健常群と腰痛歴群の各筋収縮率の結果は、背臥位運動では健常群と腰痛歴群の各筋収縮率を比較したところ、健常群の腹横筋と腹直筋が有意に筋収縮率が高いことが認められた(p<0.01)。内腹斜筋と外腹斜筋に対して有意差は認められなかった。四つ這い位運動 では健常群と腰痛歴群の各筋収縮率を比較し、多裂筋に有意差が認められた(p<0.01)。その他6筋には有意差が認められなかったが、腹横筋に関して、健常群は腰痛歴群より筋の収縮率が高い傾向がみられた。筋の左右差に関して、健常群および腰痛歴群ともに、7筋すべてにおいて有意差は認められなかった。背臥位・四つ這い位運動を含め、両群の筋収縮率を比較すると、有意に健常群の筋収縮率が高いことが認められた(p<0.001)。
【考察】背臥位運動では、腹筋群において、全体的に健常群の筋収縮率が高いことが示唆された。過去に腰痛を経験することで、LMおよびGMがともに低下することが考えられる。近年、腰痛に関与するといわれる腹横筋を代表としたLMの収縮不全だけではなく、腹筋群全体の筋力低下も要因の一つとしてあげることができる。確かに、本研究でも、腹横筋の筋収縮率低下が認められたが、LMである腹横筋の低下によって、脊椎の安定性が低下し、GMである腹直筋の効率的な筋収縮を阻害している可能性も考えられる。四つ這い位運動では、回旋制御を伴うような、いわゆるバランスを保持する運動において、量的な筋力というよりも質的な筋力である協調的な働きを示すLMのみ、筋収縮不全 が見られ、脊柱の安定性を低下させ、腰背筋への負担を増大させていると考えられる。