主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】
足アーチの機能特性に関する研究は,新鮮遺体を用いた物性試験が多くを占めている.しかし,足アーチは個人差が大きいため,立位荷重状態で足アーチを支持する足底腱膜や足底筋群の形態的特長を内部情報によって定量的に把握することが障害予防の観点から必要不可欠と考える.また,変形性関節症や靱帯不全者における荷重位での膝関節の詳細な3次元情報は少なく,運動学的・解剖学的に未解明な点が多い.荷重位での足底腱膜や足底筋群,膝関節に関する運動学的・解剖学的な知見は理学療法士にとって必要不可欠であると考える.今回我々は世界的にみても実施例の少ない立位状態で計測可能なコンパクトMRI装置の開発を行った.
【機器】
開発した装置は,0.22T型磁気回路(NEOMAX製;U型2本柱)のスペックで,共鳴周波数;9,339MHz,サイズ;約80cm立法,重量;約540Kg,ギャップ;170mm,静磁場均一度;53ppm@120mmDSV,勾配磁場効率(mT/m/A);GX=GY=GZ=1.3,5G漏れ磁場半径;中心より約70cm,電源;AC100Vであった.RFコイルは足場撮影では立位での荷重に耐え,膝部撮像では方向を変えて用いるように設計した.コンパクトで移動を可能にするために,ポリエステルを基材として銀でコーティングした特殊布で測定部をシールドした.
【評価】
ベビーオイルファントムとベビーオイルを満たした約7cmのプラスティック球により撮像の再現性,歪みについて評価した.また,男性2名,女性2名の足部についても繰り返し撮影を行い,再現性,歪みについて評価した.被験者については事前に研究の目的,方法,実験の危険性などについて説明し同意を得た.
【結果および考察】
X,Y,Z方向によって多少差異は認められたものの磁場中心の約10cm球の範囲であれば,比較的安定した撮像が可能であったが,画像の歪の補正の必要性が認められた.足アーチ形状と障害との関連から,これまでにフットプリント,アーチ高率,三次元計測など体表面から得られる形態外部情報,単純X線,CT,MRIなど形態内部情報に関する研究が数多く報告されてきた.外部情報では内部構造をどこまで反映しているかが不明であり,X線撮影では軟骨や軟部組織の判別や複数の骨の重複により骨構造の判別がそれぞれ困難である. CTやMRIでは立位の計測が困難なため,臥位で肩や腰部にベルトを掛けて膝や足部に重力方向の模擬的な圧力が加わる器具を用いた方法も試みられてきた.また,立位で膝・足関節の動的撮像(キネマチックMRI)可能な特殊MRI装置は存在すが,立位でないため前屈などの無理な姿勢でしか撮影できず,得られる結果は一般的な立位像とは考えにくい.今回開発したMRI装置は安静立位での撮影が可能で,三次元撮像による新たな膝関節・足部の研究が可能となった.