理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 448
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理学療法基礎系
車椅子角度により移乗動作の相対的タイミングは変化するか?
*篠崎 真枝大橋 ゆかり
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抄録

【目的】スキーマ理論では,あるカテゴリーに属する運動に共通の一般化された運動プログラム(Generalized Motor Program,;以下,GMP)があらかじめ記憶されており,ここから様々な運動パターンが展開されると考えられている.ひとつのGMPより展開される運動パターンは,同一の相対的タイミングにより特徴づけられる.本研究では,スキーマ理論を用いて環境変化に対する移乗動作の相対的タイミングの変化について検討した.
【方法】対象者は,健常成人13名(平均年齢25.4±4.3歳),および脳血管障害により片麻痺を有する方13名(平均年齢66.5±7.0歳)であった.片麻痺群の対象者は,移乗動作が自立もしくは監視にて可能な方とした.課題動作は車椅子からプラットフォームへの移乗動作とし,健常者群では次の2つの条件を課して動作を遂行させた;1)裸足(以下,裸足),2)左下肢に下肢部分荷重装置を装着して左下肢への荷重を体重の30%未満に制限し,さらに右下肢に不安定板を装着(以下,不安定板).これらの健常者群の2条件と片麻痺群に対し,車椅子角度30°と60°という2つの環境条件を設定し,移乗動作パターンの変化を分析した。健常者群では動作解析に三次元動作分析システムを用い,片麻痺群ではビデオカメラにて2方向から動作を撮影し分析した.また,動的な重心移動範囲の測定としてクロステストを実施した.
【結果】クロステストの結果,左右移動範囲は,裸足の条件が不安定板と片麻痺群に比べ有意に大きく,前後移動範囲は各々の条件間に有意な差がみられた(裸足>不安定板>片麻痺群).
次に,移乗動作の動作開始から終了までの時間を100%として,起立開始,前屈終了,肩甲帯回旋開始,骨盤帯回旋開始,起立終了,着座開始,骨盤帯回旋終了,肩甲帯回旋終了,殿部接地の9時期の相対的タイミングを算出した.各タイミングについて分散分析を行った結果,片麻痺群の肩甲帯と骨盤帯回旋開始の相対的タイミングは,車椅子角度30°における方が60°より有意に遅かった.一方,健常者群の裸足と不安定板の条件では,車椅子角度の条件間で有意な差はみられなかった.
【考察】相対的タイミングの分析より,本研究で設定した車椅子角度の環境変化に対し,健常者群では立位安定性を制限するような条件下であっても,相対的タイミングは変化しなかった.一方,片麻痺群では車椅子角度の変化に対し相対的タイミングに変化がみられた.これより,同じ環境条件の変化に対して,健常者群ではひとつのGMPから展開されていた運動が,片麻痺群ではひとつのGMPでは対応できず,異なるGMPから運動パターンを展開していたと考えられた.またこのことが,片麻痺群の環境変化に適応した動作応用を妨げるひとつの要因であることが示唆された.

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© 2005 日本理学療法士協会
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