理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 458
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理学療法基礎系
地域高齢者における手指振戦の年齢的特徴の推移
*真壁 寿日下部 明山路 雄彦金子 賢一水戸 和幸坂本 和義
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キーワード: 高齢者, 振戦, 年齢的特徴
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抄録

【目的】振戦は身体の一部あるいは全身に出現する律動的な不随意運動とされている。振戦は健常者の振戦を生理的振戦、疾患者の振戦を病理的振戦とし、その出現状況により安静時振戦、姿勢時振戦、動作時振戦に分類される。手指振戦は通常8-12Hz帯域に主要なピークがあり、このピークは上位中枢由来の振動とされている(Elble and Randall, 1976)。パーキンソン病など上位中枢が障害されるとこの8-12Hz帯域に出現するピークが6Hz付近に低周化して出現する。また、手指振戦の8-12Hz帯域に出現する主要なピークがどのように変化するかを検討することによって、上位中枢の運動調節能が評価できることも報告されている(Makabe and Sakamoto, 2000)。そこで、今回高齢者の手指振戦が年齢によりどのように変化するかを検討した。

【方法】本研究は高齢者健康対策サービスの一環として行われた。対象は介護保険の介護認定を受けていない60歳以上の地域高齢者187名、事前に同意を得た者とした。年齢は60歳代72名、70歳代104名、80歳代11名で平均年齢72歳であった。約75%の対象者がなんらかの病気で通院していた。手指振戦は、第2指先端に加速度センサー(9G110B, NEC三栄)を取り付け測定した。測定時間は1分間で、第2指を視覚的フィードバックにより水平に保持した際の手指振戦を測定した。サンプリング周波数1kHzでAD変換し、測定時間の1分間の前後10秒間を除いた40秒間の時系列データを解析対象とした。時系列データを周波数解析し、FFTよりトータルパワー(1-50Hz)、ARモデルよりピーク周波数を求めた。これらの値が年齢によりどのように変化するかを分散分析、多重比較法により検討した。

【結果】1Hzから50Hzの周波数帯域のトータルパワー値の平均は、60歳代5.16×10-4G、70歳代7.06×10-4G、80歳代4.86×10-3Gで年齢とともに増加する傾向にあった。また、80歳代のトータルパワー値は他のどの年代と比べて有意に増加していた(P < 0.0001)。8-12Hz帯域のピーク周波数の平均は、60歳代9.3Hz、70歳代8.5Hz、80歳代8.6Hzであった。70歳代と80歳代のピーク周波数は60歳代のそれと比べて低下する傾向にあった。

【考察】手指振戦のトータルパワーは振戦の揺れの大きさを表し、8-12Hz帯域のピークは振戦の主要な振動成分を表す。年齢が上昇するにつれてトータルパワーが増加するのは、小脳、大脳基底核系の外発的および内発的運動調節能および視覚や固有感覚によるフィードバック能が低下したためと推察された。また、この影響が8-12Hz帯域のピーク周波数の低周化にも現れているものと考えられた。

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© 2005 日本理学療法士協会
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