理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 457
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理学療法基礎系
筋電図平均加算法によるヒト母指球筋から橈側手根伸筋への促通の解析
*鈴木 克彦小川 恵一藤井 浩美佐藤 寿晃仲野 春樹寒河江 正明内藤 輝
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抄録

【目的】
対象物を手で把持するのに母指の運動と同時に手関節の固定が必要である。随意運動には,I群求心性神経の入力により,運動ニューロンプールの興奮性を調節する脊髄反射回路(反射)での調節機構が必要である。我々は,手の筋を支配する正中神経(MIH)から手関節固定筋である橈側手根伸筋(ECR)運動ニューロンプールに対する反射の効果について,電気刺激を条件刺激とした筋電図平均加算(EMG-A)法を用いて解析してきた。MIHに対する運動閾値直下の刺激で,最大収縮の10%収縮中のECRに+16~+31%の促通効果がみられることを報告してきた。しかし,求心性神経が筋紡錘からのIa線維か,ゴルジの腱器官からのIb線維かの鑑別,母指球筋(TM;短母指屈筋,短母指外転筋,母指対立筋)と第1・2虫様筋のどちらの筋に由来するのかの判別が課題に残された。そこで本研究では,筋紡錘を興奮させI群a線維に限定した刺激になるとされる叩打刺激を用いて,TMからECR運動ニューロンプールへの反射をEMG-A法により解析した。
【方法】
対象は健常者6名の右上肢とした。手根部でのMIHの電気刺激により誘発されるTMのH波とTMの叩打刺激により誘発されるTMのT波を記録し潜時を計測した。ECRの最大収縮に対する10%の収縮をしながら,同条件の電気および叩打刺激前60 msから刺激後140 msまでの筋電図を全波整流後,平均加算を行った。得られた波形の刺激前をコントロールとし,刺激後の波形の潜時と振幅から反射の効果と求心性経路を解析した。さらに,誘発された反射に対するTMおよびECRへの振動刺激の影響についても調べた。条件刺激前後および振動刺激前後の波形の比較は,student t-testによる検定を行い,危険率1%未満を有意と判定した。
【結果】
TMの叩打刺激により,6名の被験者すべてでECRに潜時28±4 msで+83±76%の促通(p<0.01)が誘発された。MIHの電気刺激により,すべての被験者に潜時24±4 msで+27±17%の促通が誘発された。TMのT波の潜時は30±4 ms,H波の潜時は27±3 msであった。被験者毎の電気刺激と叩打刺激による促通の潜時差は,同条件の刺激で誘発されたT波とH波の潜時差とほぼ同じ値となった。また,電気と叩打刺激で誘発された促通は,TMに対する振動刺激により6名中3名で消失し,3名で有意に減少した。しかし,ECRへの振動刺激では変化はみられなかった。
【考察】
TMからECRへの促通は,I群a線維を求心性神経とする促通性反射であることが示された。さらに,電気刺激で誘発された促通は,母指球筋由来の同じ経路で発現していることが明らかにされた。

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© 2005 日本理学療法士協会
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