理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 467
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理学療法基礎系
健常者における起立負荷時頚動脈血流の変化
*芝 寿実子上西 啓裕江西 一成成川 臨木下 利喜生佐々木 緑白川 武
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抄録

【目的】特定機能病院および地域支援型病院などのいわゆる急性期病院では早期退院が推進され、その一環として、各種重症重複障害患者における発症早期リハビリテーションが施行されつつある。同時に、あらゆる疾患における早期離床、筋力維持などdeconditioning予防も推奨されている。早期離床の際に、まず身体に与えられる負荷は安静臥床位から坐位や立位への姿勢変換である。しかし、姿勢変換における循環調節能は不明瞭な点が多く、特に姿勢変換における脳への血流に関する検討はほとんど行われていない。そこで、まず、健常者における起立時脳血流のひとつの指標となる総頚動脈血流を観察し、検討を加えることを目的に本実験を計画した。
【対象と方法】被験者は健常男性6名(平均年齢33±8歳、身長172±8cm、体重64±9kg)とした。自律神経状態を一定にするためすべての測定は夕食前の午後6時から7時半の間に行った。安静臥床により心拍・血圧・総頚動脈血流が安定した後、0度水平臥床位よりのコントロール時測定を行った。その後起立台を使用し、速やかに60度立位へ起立し、3分間その姿勢を維持した。測定項目は血圧計(Colin製Listmini)による血圧と脈拍、Bモードドップラーエコーによる左総頚動脈血流速度(最大、最小、拡張期)とし、コントロール時計測を3回行った後、60度立位で1分毎にすべての計測を行った。
【結果】コントロール時脈拍と平均血圧はそれぞれ69±16beats/minと84±13mmHgであった。起立3分後心拍数は74±14beats/minへ有意に(P<0.05)上昇したが、平均血圧は91±23mmHgと変化しなかった。コントロール時頚動脈流速は、最大と最小でそれぞれ0.876±0.194、0.180±0.031m/secであり、起立による有意な変化は認めなかった。
【考察とまとめ】生体は柔軟性に富んだ血管で構成されているため、起立すると重力によって下肢への血流移動が生じる。そのため静脈還流量の減少と心拍出量の低下による低血圧が惹起される。これらの刺激はそれぞれ中心静脈、右心房および左心房に存在する心肺受容器(低圧系受容器)、そして大動脈弓と頚動脈洞に存在する圧受容体(高圧系受容器)が感知し、迷走神経と舌咽神経を介して延髄の循環調節中枢に伝わり、そこから交感神経を通じて抵抗血管収縮による総末梢血管抵抗の増加と心収縮および心拍数の上昇による心拍出量の増加を生じ血圧の維持を図る。起立時にはこの生体反応が秒単位のうちに速やかに生じ、ヒトの最重要臓器である脳の血流量を保つとされる。健常人を対象とした本研究では、脈拍上昇すなわち心拍数上昇による心拍出量増加から血圧変化を殆ど認めず、その結果、頚動脈血流速も維持されている事が判明した。

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© 2005 日本理学療法士協会
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