理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 469
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理学療法基礎系
培養骨格筋細胞への周期的一方向伸張刺激は糖の取込みを促進する
*岩田 全広早川 公英村上 太郎河上 敬介宮津 真寿美鈴木 重行
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抄録

【はじめに】骨格筋において細胞外の糖は、主に、細胞膜に存在する糖輸送担体4型(GLUT4)を介して細胞内に取込まれる。GLUT4はインスリン刺激や筋収縮に応答して細胞内から細胞膜上に移行し糖の取込みを行う。インスリンの場合はPI3K / Akt経路を介して起こることが分かっている。しかし筋収縮による糖の取込みのシグナル伝達経路はインスリンとは異なり、筋収縮に伴うAMPキナーゼの活性化や筋収縮の結果として生じる張力等の因子が関与すると考えられているが、どの因子がどの程度関与するのかは不明である。最近、伸張刺激が糖の取込みを促進することが報告された(Ihlemann Jら,1999)。この報告によると、伸張刺激による糖の取込みはAMPキナーゼの活性を伴わずに促進されるが、そのシグナル伝達経路は不明である。そこで我々は伸張刺激による糖の取込み促進のシグナル伝達経路を解析する目的で、培養骨格筋細胞に伸張刺激を負荷し細胞レベルでの検討を行った。

【方法】培養細胞は、マウス骨格筋由来の筋芽細胞株C2C12を用いた。Collagen type Iをコーティングした伸張可能なシリコン膜上に培養し、筋管細胞に分化させた。分化誘導開始から5日目の筋管細胞を、伸張刺激装置でシリコン膜ごと伸張した。刺激条件は、頻度1Hz、伸張率10%、刺激時間30分の周期的一方向伸張刺激とした。また陽性対照としてインスリン(100 nM)を培養液に投与し30分間刺激した。各刺激直後に糖負荷試験を行い、糖の取込み量を測定した。さらに、伸張刺激とインスリン刺激の両刺激前にPI3Kの阻害薬であるwortmannin (100 nM)を培養液に投与し、糖負荷試験を行うことによりPI3Kの関与を調べた。全ての刺激群の糖の取込みを非刺激群と比較した。

【結果】伸張刺激による糖の取込みは非刺激群に比べて26.4±2.6%、インスリン刺激による糖の取込みは16.1±5.0%増加した。wortmannin投与後の伸張刺激による糖の取込みは、非刺激群に対して22.7±6.7%増加したが、インスリン刺激による糖の取込みは2.2±0.3%減少した。

【考察】今回、伸張刺激により培養骨格筋細胞の糖の取込みが促進することが分かった。またPI3Kの阻害薬を用いた実験結果から、周期的伸張刺激による糖の取込み促進は、インスリン刺激と異なりPI3K / Akt経路を介さないことがわかった。今後、周期的伸張刺激がどのようなメカニズムで糖の取込みを促進するか確かめたい。伸張刺激による糖の取込み促進の分子機構が解明されれば、科学的根拠に基づく効果的で効率的な運動療法の開発につながると考える。

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© 2005 日本理学療法士協会
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