抄録
【目的】骨格筋は、過度の運動を行うと損傷がおこることが知られている。しかし、傷害の発生メカニズムは明らかではない。持続的収縮(30分間)を負荷した直後の骨格筋では、筋節の過収縮など、微細構造の変化が発生する。筋節の過収縮が発生する原因として、収縮時に筋が過度に短縮することが一因と思われる。骨格筋を伸張して短縮できない状態で電気刺激を行えば、筋節の過収縮が抑制できるのではないかと仮説をたてた。
【方法】8週齢のWistar系雄性ラット27匹(体重261.4±13.3 g)を使用した。後肢を固定せずに坐骨神経を電気刺激した自由収縮群と、バネと装具で足関節を最大背屈位、膝関節を伸展位で固定した伸張収縮群で、ヒラメ筋の傷害程度を比較した。電気刺激は坐骨神経へ電圧5 V、周波数50 Hz、持続時間1 msの矩形波で連続30分間行った。対側下腿は無処置で正常群とした。
電気刺激終了後、0、1、6、12時間後にラットを屠殺した。また、自由収縮群のみ刺激終了24時間後にも材料を採取した。採取したヒラメ筋は、光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡で観察した。定量的分析を行うため、あらかじめ定めた方法に従って各試料からそれぞれ3枚ずつ撮影した電子顕微鏡写真540枚を、どの試料かを知らない第三者が、Matsuura et al.(2001)の方法に準じて、1)筋節の過収縮、2)筋節の過伸展、3)Z帯の異常、4)筋フィラメントの崩壊、5)筋フィラメントの消失に該当する場合を異常とみなし、筋線維全体に占める各異常部位の面積の割合を、別々に計測した。
【結果】光学顕微鏡では、自由収縮群のヒラメ筋の縦断像で筋節の変化が多数観察された。しかし、伸張収縮群と正常群では、縦断像で筋節は整然と配列し、変化はほとんど認められなかった。電子顕微鏡で定量化すると、自由収縮群では、刺激終了直後には筋節の過収縮(9.8±6.8%)、Z帯の異常(31.0±11.2%)、刺激6時間後には筋節の過伸展(5.0±3.1%)、刺激12時間後には筋フィラメントの崩壊(5.2±2.2%)が多く、筋節の過収縮は6時間後以降には認められなかった。一方、伸張収縮群は全経過を通して筋節の過収縮と過伸展は全く観察されず、傷害面積は2%前後だった。正常群では、傷害面積は1%未満であった。
【考察】伸張収縮群では、筋節の過収縮が防止された。筋節の過収縮は、デスミンなどの細胞骨格が崩壊して発生すると推測される。伸張位群では持続的収縮に抗する静的ストレッチにより細胞骨格の配列が正常な状態に維持され、過収縮が防止できたと推測された。伸張収縮群で電気刺激直後だけでなくその後も筋節の異常がほとんど見られなかったことは、筋節の過収縮が、過伸展や筋フィラメントの崩壊へと変化することを強く示唆する。