抄録
【目的】立位におけるリーチ動作は、日常生活において頻繁に行われている動作であると同時に、バランス練習や麻痺側への荷重練習などとして臨床的にもよく用いられている。随意運動中の姿勢調節は、課題遂行の内容や環境に応じて異なるとされているが、立位リーチ動作において、このような変数が姿勢調節に与える影響を調べた報告はまだ少ない。そこで、本研究では、対象物の配置変化が立位リーチ動作中の姿勢調節に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は健常若年成人17名(男3名、女14名、平均年齢20.9±1.6歳)とした。自然な足幅で上肢を下垂した立位姿勢から、対象物に向けて利き手でリーチ動作を行わせた。対象物の配置方向は、利き手の肩関節を基準として、正中位・45°内転位・45°外転位の3条件とし、最大リーチの70%の距離、上前腸骨棘の高さに設置した。各条件で3試行の計測を行い、得られた平均値を解析に用いた。左右の足下に配置した2枚の床反力計 (Kistler社)から動作時の床反力を計測し、各下肢最大荷重量と到達時のCoP座標(動作上肢側・前方を正とする)を求め、各配置条件における相違を検討した。同時に、動作側三角筋前部線維から導出した表面筋電図と対象物の下に設置したフットスイッチの信号を計測し、多用途生体情報解析プログラム(BIMUTASII、キッセイコムテック社)にて床反力データに同期させ、各条件におけるCoP座標の変化の時間的特徴を検討した。分析には一元配置分散分析を行い、多重比較検定にはScheffe法を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】動作中の非利き手側下肢最大荷重量(%BW)は正中位:54.4±2.5、内転位:75.0±10.5、外転位:67.3±6.8、利き手側下肢最大荷重量(%BW)は正中位:69.6±9.0、内転位:61.2±5.9、外転位:94.2±4.1となり、いずれにおいても各配置条件の間に有意な差が認められた。到達時のCoPのX(側方)座標(mm)は正中位:30.9±13.6、内転位:-48.2±25.3、外転位:87.0±29.1となり、各配置条件の間に有意差が認められた。Y(前後方)座標(mm)は正中位:65.8±17.5、内転位:41.7±21.8、外転位:42.0±55.5となり、配置条件による有意差は認められなかった。
【考察】リーチ動作開始とほぼ同時にCoPは対象物とは逆の方向に移動し、動作時間の30~40%で最小に達した後、対象物が配置されている方向へと移動する傾向が、3配置条件全てにおいて共通して認められた。随意運動開始前には、運動方向へバランスを崩し、運動開始をアシストするために予測的な姿勢調節が行われることが知られている。本研究において動作開始時期に認められた対象物とは反対側・後方へ向かうCoPの動きは、上肢挙上に伴うCoMの前方への動きと、この予測姿勢調節を反映しているものと思われた。