抄録
【目的】リハビリテーションにおける治療において、視覚的フィードバックを利用し、指導する機会は多いが、その脳内機構に関する報告は少ない。そこで、我々は、手指の随意運動における視覚的確認の影響をfunctional MRI(以下fMRI)を用いて分析し、脳の賦活分布を検討した。
【対象】対象は、神経学的な疾患の既往のない健常成人7名、平均年齢28歳、性別は男性1名、女性6名である。利き手はエジンバラバッテリーにて、全員100%の右利きであることを確認した。また、本研究は、東京都立保健科学大学での倫理委員会の承認を受け、すべての対象者にインフォームドコンセントを行い、了解を得た。
【方法】運動課題は、母指と中指、次いで母指と示指、母指と薬指、母指と小指をそれぞれ1秒間に1回の速度で連続的にタッピング動作である。この課題を自己ペースで行う場合と、鏡を通して視覚的確認をしながら行う場合とを比較した。スキャン時間は、課題(自己ペース vs 視覚確認)と安静を各40秒間とした。MRIはGE社製1.5T臨床用MR装置(Signa Horizon)を使用した。fMRIの測定には標準ヘッドコイルを用い、Echo Planar法にて撮像した。分析は、得られた画像をMATLAB上の画像処理ソフトである、SPM99を用いて動きの補正、タライラッハ空間への脳の標準化、ガウシアン・フィルターによる平滑化を行い解析した。また、得られた賦活部位は、Talairach Daemonによって同定した。
【結果】右手指動作時と左手指動作時の対側感覚運動野(以下SMC)領域の賦活がみられたボクセル数は、右手指動作時(7施行)、随意的には平均413.6±276.3、視覚的確認にて、平均717.3±292.1であり、7施行中6回で増加し、左手指動作時は(4施行)、随意的には平均704.3±592.0、視覚的確認にて、平均1107.3.3±913.5であり、4施行中3回で増加した。視覚的確認を行いながら手指運動を行うと、全例で後頭葉のいずれかの部位(舌状回、中後頭回、下後頭回、楔状回、紡錘回)の賦活が確認され、さらに、上前頭回、中前頭回、下前頭回、上頭頂小葉、下頭頂小葉、上側頭回、下側頭回において賦活が増大する傾向がみられた。
【考察】視覚的確認を行うことにより、SMCの賦活範囲が増大した。また、後頭葉の賦活以外に、前頭葉、頭頂葉、側頭葉においても賦活が増加する傾向があった。個人間で大きな差がみられるのは、視覚情報を処理する過程での差異ととらえることができるが、これらの結果は、運動学習における視覚フィードバックが、より広く大脳半球を賦活していることを示唆している。今後、さらに症例数を増やし、リハビリテーションの治療場面における視覚情報の有用性を検討したいと考えている。