抄録
【目的】人間が運動をするとき、運動感覚が調整力のための要素として重要になっている。そのため、固有受容器への刺激を考慮した神経筋協調性能力向上をねらいとした治療は、PNFを始めとし、リハビリテーション治療として用いられている。そこで固有受容器への刺激が立位バランスに与える影響について理学療法的視点から検討した。
【対象】整形外科的疾患を有しない成人健常者男性28名、女性12名(平均年齢21.6±3.7歳)、平均身長169.6±8.9cm、平均体重63.7±13.4kgを対象とした。対象者には十分説明し、同意を得た。
【方法】検出台上で両足内側縁を接した直立姿勢にて、水平方向2mの位置に置かれた指標を見るように指示し、開眼状態で安定した後60秒間直立させ、重心動揺を測定した。重心動揺の測定には酒井医療(株)社製重心動揺計アクティブバランサーEAB-100を用い、スタティック計測にて総軌跡長と外周面積を自然立位と弾性包帯による両下腿部圧迫下での立位(以下、圧迫立位)にて開眼と閉眼で測定した。重心動揺計のサンプリング周波数は20Hzとした。測定にあたっては十分課題を説明、練習した後に測定し、各測定には休憩を入れた。開眼時での自然立位と圧迫立位、閉眼での自然立位と圧迫立位各々の総軌跡長と外周面積の値を対応があるt検定にて、有意水準5%で比較検討した。
【結果】総軌跡長の開眼の値(平均±標準偏差)は自然立位1081.2±180.6mm、圧迫立位では1082.0±177.6mm、閉眼では自然立位1354.6±299.0mm、圧迫立位で1333.6±329.0mmであり、いずれも圧迫の有無での有意差を認めなかった。外周面積は開眼での自然立位で187.7±103.5mm2、圧迫立位で188.2±106.9mm2と開眼では圧迫の有無での有意差を認めなかったが、閉眼では自然立位で423.8±218.6mm2、圧迫立位で平均370.8±201.5mm2であり、閉眼では圧迫の有無での有意差が認められた。
【考察】視覚情報が遮断されると、立位バランス能力が低下することは一般的に知られている。今回は閉眼で両下腿部への圧迫刺激を加えると、平衡障害の程度を示す外周面積が有意に減少する結果が得られた。今回の研究から固有受容器へ刺激を与えることが、視覚情報が遮断された環境下での立位バランスを向上させる要因となることが示唆された。