理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 732
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理学療法基礎系
両股関節周囲筋解離術前後の脳性麻痺児1症例における力学的歩行解析
*田村 大輔金 承革平上 健松尾 隆
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抄録

【はじめに】脳性麻痺症例のはさみ足歩行はハムストリングス、股関節内転筋、股関節屈筋の痙縮で生じ、歩行に不安定性を引き起こす。治療としては整形外科的に筋解離術が行われることが多い。筋解離の程度や部位を決定する手術計画の立案や理学療法計画の立案、そして手術および理学療法の効果判定には、術前後での客観的な動作解析が不可欠であると考える。今回我々は、脳性麻痺児1症例に対して歩行の生体力学的な計測を行う機会を得た。本症例報告の目的は,脳性麻痺児に対する両股関節周囲筋解離術前後の歩行の力学的解析結果を報告し、結果の解釈を紹介する。そして、本症例に対する理学療法計画の際の着眼点を提案することである。
【方法】対象は脳性麻痺男子1名。年齢は9歳。平成16年1月16日に痙縮による股関節、膝関節の可動域改善目的にて両股関節周囲筋解離術を試行した。課題は歩行路8mの自由歩行であり、10回の試行を計測した。術前と術後5ヶ月の歩行を計測した。計測システムは3次元動作解析装置VICON370(Oxford Metrics社製)、床反力計(KISTLER社製)で構成した。関節角度、関節モーメント、関節パワーを歩行解析ソフトVICON Clinical Manager(VCM)で算出した。術前後のデータを比較した。
【結果】術前に比べ左右骨盤前傾角度が有意に前傾していた。立脚期での左右股関節伸展角度が増加していた。立脚期での左右股関節屈曲モーメントの値が増加していた。立脚期での左膝関節屈曲モーメントの値が増加していた。立脚期でのパワーの値が0に近づいていた。
【考察】結果を総合的に解釈すると、術後には左脚が全体的に伸展し、左膝関節が過伸展していることが伺えた。左立脚期における股関節・膝関節の屈曲モーメントの増大と股関節パワー値がゼロに近づいた結果に対しては、股関節屈曲筋の収縮によるものではなく、腱や軟部組織の受動張力によるものと判断した。骨盤前方傾斜に関しては、膝関節屈曲筋力の代償・股関節屈筋による張力増大により骨盤の位置変化が生じたと考える。左膝関節の更なる過伸展を予防し、骨盤前傾を維持することが本症例における理学療法の目的と考える。久保らの報告では、ヒト歩行中の腓腹筋の筋線維束・腱の動態を超音波で観察した結果、立脚中期から後期で腓腹筋が遠心性収縮を行っているときに、筋全長は伸張しているにもかかわらず、筋線維束長はほぼ一定の値を示している。これは、遠心性収縮時にはある一定の筋線維長を保つための筋力が発揮されると解釈できる。理学療法を実施する際にはこの結果を考慮し、股関節・膝関節屈筋の収縮力を上げるトレーニングが必要であると考えている。
【参考文献】久保啓太郎、他:ヒト歩行中の筋線維動態、バイオメカニズム15、97-105、2000.

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© 2005 日本理学療法士協会
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