理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1101
会議情報

理学療法基礎系
姿勢方略の違いによる重心側方移動時の下腿筋活動特性
*竹内 弥彦下村 義弘岩永 光一勝浦 哲夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】我々は先行研究において,重心側方移動動作時の前額面姿勢方略は高齢者と若年者で異なり,高齢者では股関節を中心とした体幹の傾きを積極的に利用する方略を用いることを報告した。他の先行研究においても,側方姿勢方略の分析は主に体幹機能に着目した報告が多い。しかし足底が接地している以上,固定軸としての足関節機能,特に基底面内の足圧中心最大移動位置における機能について着目する必要があると考える。本研究の目的は,姿勢方略別の側方移動時および足圧中心最大移動位置における下腿筋活動の特性について調査し,検討を加えることである。
【対象と方法】対象は,後述する課題動作において股関節方略を用いた高齢者13名(平均年齢68.3±4.6歳)と足関節方略を用いた健常学生10名(平均年齢20.6±20.0歳)の計23名とした。全ての対象者には実験の趣旨を説明し,同意を得た後に計測を行った。被験者にはForce Plate(G-5500; anima製)上で開眼閉足位にて安静立位保持後,任意の速さで重心を最大限右方向へ移動し最大移動位置で5秒間立位姿勢を保持する運動課題を与えた。被験者の肩峰と上前腸骨棘に磁気トラッキングセンサ(Fastrak; Polhemus製)を取り付け,課題動作中の運動方略を記録した。Force Plateから得られた足圧中心全移動距離を100%とし,右側80%以上に位置していた区間を側方最大移動位置と定義した。課題動作全般と最大移動位置における右側下腿筋(前脛骨筋・ヒラメ筋・長腓骨筋)および母趾外転筋の活動電位を記録し,最大随意収縮時の相対値(%MVC)を求めた。群内における各筋活動量を分散分析後,多重比較(Tukey)法を用いて比較した。さらに動作全般の各筋活動量の変動係数を求め,群間でt検定(welch)を用いて比較した。
【結果】最大移動位置における各筋活動量の比較では,高齢群では有意な差を認めなかった。若年群では前脛骨筋・長腓骨筋に比して母趾外転筋が有意に大きな値を示した(p<0.05)。変動係数の比較では,前脛骨筋と母趾外転筋で高齢群に比して若年群が有意に大きな値を示した(p<0.05)。
【考察】高齢群において最大移動位置における筋活動量に有意な差を認めなかったことは,高齢者は不安定な状況下で足関節周囲の筋群を同程度に活動させていたことが考えられる。今回対象とした高齢者の運動方略は肩甲帯と骨盤帯が逆方向に移動することを確認していることから,体幹上部と下部で起こる逆相運動に対し,足部周囲の包括的な筋活動により固定点としての足部の安定性を得ていたことが考えられた。一方,若年群では,各筋を選択的に活動させていたことが考えられ,足関節の内外側の安定性に関与する筋よりも,足趾の床把握作用を有する筋の活動により安定性を得ていたことが考えられた。また動作全般の筋活動の変動係数の比較からも,高齢群が時間方向に伴った選択的な筋活動の制御が困難であり、一定した筋活動を用いる傾向にあることが考えられた。

著者関連情報
© 2005 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top