理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1102
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理学療法基礎系
外乱刺激を加えた歩行練習が運動機能に与える影響
―外乱刺激強度の検討―
*塩田 琴美池田 誠
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抄録

【目的】近年の研究結果から,地域の在宅高齢者における20%が転倒を経験し,高齢者の活動性低下を引き起こす重要な問題点となっている。しかし,転倒のメカニズムは未だ未解明であり,転倒予防に対する最も効果的な治療法についても確立されていない。そこで,本研究では,転倒予防訓練システム(以下機器)を使用した動的な姿勢制御反応のトレーニングにより,運動機能に与える影響及びその改善効果について,高齢者と若年者で比較検討することを目的として行った。
【対象と方法】本研究は,東京都立保健科学大学研究倫理審査委員会の承認を受けた。対象は,同意を得た地域在住健常高齢者4名(年齢75±5.9歳),健常成人6名(20.4±0.8歳)。はじめに,静的バランス(開眼片足立位保持時間),動的バランス(最大1歩幅, Berg Balance Scale以下BBS),歩行能力(普通歩行速度),筋力(膝関節伸展筋力,足関節底屈筋力,握力),活動性評価(転倒アセスメント)の体力測定を行った。次に,各群共に,左右分離型トレッドミルを使用し歩行練習を週2回(14分/回)計5週間行った。歩行速度を2km/hとし,外乱刺激として片側のベルトを無作為かつ急激に20%,40%,60%,100%(支持あり),100%(支持なし)減速させた。各外乱刺激の強度で,2回施行した。5週間の歩行練習が終了した時点で,再度同一の体力測定を行った。統計解析の方法は,Mann-Whitney検定で有意水準5%とした。
【結果と考察】以下,高齢群(若年群)の改善率を併記した。開眼片足立位保持時間18.2±24% (0%),最大1歩幅6±8.7%(6.2±12.5%), BBS1.4±1.8% (0%),普通歩行速度3.2±9.9% (1.3±7.4%),膝関節伸展筋力19.2±20.9% (24.2±50.3%),足関節底屈筋力19.2±25.6% (30.8±45.4%),握力0.4±5.2% (11±11.3%),転倒アセスメント0.4±5.4% (0%)の改善が認められた。高齢群と若年群の改善率の比較による有意差(p<0.05)を認めなかった。この結果,高齢群においても歩行練習時の外乱刺激によるトレーニングは,運動機能能力の向上につながると示唆された。歩行練習による膝関節伸展筋最大筋力の改善および外乱刺激に対する姿勢反応時間の短縮は,姿勢調整に対する多様な姿勢反応及びストラテージの獲得につながると考えられた。また,姿勢反応の促通には外乱の強さ,速さ及び方向などの要素が重要であり,今回の研究では歩行時に外乱刺激を加えたことで,前述した要素に相互作用が生じ,運動機能能力の向上を認めたと考えられた。これら姿勢反応及びストラテージの獲得は,外乱刺激などの環境の変化に対し柔軟に適応することができ,転倒予防につながると考えられた。

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© 2005 日本理学療法士協会
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